院患

上本利猿

本文

昔母が勤める病院に忘れ物を取りに行ったことがある。

ナースステーションに行っても母はいない。

キョロキョロ院内を見回ってると母らしき面影を見た。


忘れ物を渡そうと母について行くと、病院の奥の奥のような、

それこそ、まるで“遠ざけてるんじゃないか”ってぐらい奥の病室に入っていった。


仕事中だろうから、邪魔しないように病室をそっと覗くと、広い病室に、

患者であろう人がベッドに横たわっていた。

不気味に思う程、ポツンとその病人のベッドは設置され、4〜5人程度の

医師や看護婦が取り囲むように治療と思われることをしている。


患者の顔や身体はシーツやカーテンで隠されてよく見えない、

不気味だったのが響く音だった。


心電図でも医療機器の音でもない、無機質でじっとこちらを見透かしたような音

が、とにかく不気味で、不可解で、怖くて仕方なかった。


でもそんな治療を受けてる”患者“って誰なんだろう。

そう気になってしばらく観察していた。


そんなことしなきゃよかったのに。


しなかったら、見なくて済んだのに。


1999年5月13日 大阪府大東市某マンションにて発見された縊死体のそばにあった遺書のようなメモから引用

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院患 上本利猿 @ArthurFleck

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