弐話-1/12の屋敷

「ねぇ!休憩きゅうけい、休憩取ろうよ!!」



 沢山たくさん古書こしょが目の前にある中、必死ひっし様子ようす泰斗やすと肆谷よつやに話しかける。



 ――時はさかのぼり、約五時間前。門に辿たどり着いた二人は、大きな家がつらなる真っ直ぐな道を進むと、円状に十二軒の家が並んでいた。

 まるで寝殿しんでんのようだ……なんて思った。流石さすがにそこまで大きくないかもしれない。でも、そこまで思わせるほど大きかった。


 肆谷が歩いて、その中の一つの家に向かう。そんな肆谷に泰斗がついて行く。そして向かった家の門をけ、入り、敷地内しきちないにある古い横開よこびらきのれた手つきでけると小声で。



「ただいま……。」



 そう呟いた。

 正直しょうじき驚いた。どこに連れて行かれるのだろう、なんて考えていた行き先がこの肆谷と言う少年の家だとは誰も思うはずが無い。


 まぁ……それから色々いろいろありまして。俺の記憶が無い……?とかどうとかが報告されて今勉強している訳で、約三時間半ぶっ続けで叩き込まれている。疲れたとか、飽きたとか言っても休ませて貰えない。



「駄目だ……って言いたいが、もうこんなに経ってるしな……。今日は帰れ、俺が送る。」


「やっ――たぁ!!」



 特に勉強ができない泰斗は、完全に集中が切れており力が抜けた体を机に伏せる。



(俺に百年前の人の魂がねぇ……。)



 肆谷や、本から勉強した事は。幽霊ゆうれい妖怪ようかい、その他の化けばけものについて。そして暴走ぼうそうしたそいつらをはらったり、清めたりするのを何百年も前から行っていること。祓ったりするのに人間と妖怪一対一のバディを組むこと。その人間や妖怪が死ぬと百年後、現状のように人間の魂は別の人間へ、妖怪の魂も人間へ憑く。そして憑き人となった人は、主が発現はつげんすると同時にその場に駆けつけると言う。発現は主の肉体の魂と、百年前の人の魂がひとつになり五感ごかんで化け物を感じられる様になることを言う。


 他にも、憑き人は肆谷だけでは無い。無数にいる。他にあった、ここを含め十二軒の家は全部憑き人の家系だそう。睦月むつき如月きさらぎ弥生やよい卯月うづき皐月さつき水無月みなづき文月ふづき葉月はづき長月ながつき神無月かんなづき霜月しもつき師走しわすこれで全部だ。他の家は、この十二の家の分家がほとんどらしい。





 ×    ×    ×





 ――ある昔、幽霊・妖怪・化け物のたぐい目視もくしできる者がいた。その者は気付いた。この世のあらゆる現象げんしょうには、少なからずそいつらが絡んでいることを。そして、そいつらに悩まされている人間を。その者は仲間を求めた。自分と同等の人間を。力ある人間を。理性ある " 妖怪 " を。


 その者が亡くなってから百年後。その者は目覚めた。いや、新たな身体に変わっていた。別の肉体にくたい、別のたましい。完全に完成された人間の身体に、その者の魂はいてしまった。それを理解してしばらく放心状態でいれば、その者の横で。



「おかえりなさい、ご主人様。」



 そう、ささやかれた。





 ×    ×    ×





 ――(記憶が無い割に、すぐ受け入れるな……。)



 泰斗を送り届ける途中、ひそかに考えていた。普通ならば、自分に憑いている魂の記憶も発現と同時に頭に入ってくるはずなのだ。記憶が無いと言うのは例外だ。しかも、今まで報告がされたことの無い……。本当に記憶が無いならば、こんなにすんなり受け入れられる事では無いと肆谷も分かっている。


 またあの古びた駅へ着き、行きと同じ様な方法で普通の駅に行けば。



「ここで大丈夫、送ってくれてありがとう。」


「また明日行く。」



 愛想の良い笑顔を肆谷に向ければ、逆にこちらは無愛想な表情で一言だけ放ち、泰斗に背を向け帰っていく。そんな肆谷を苦笑いで見送り、彼もまた肆谷がいたであろう場所から背を向け歩いて行く。





 ――翌日の朝七時頃。



「泰斗〜お友達よ〜。」



 土曜日である為朝早くから勉強をしていた彼は、友達と言う響きに覚えが無かったものの、まさかと急いで階段を下りる。泰斗のふんわりと緑がかった白髪とは違い、薄い茶色で軽く結んでいる髪が特徴の母と玄関ですれ違うと。



「泰斗が友達なんて珍しいわねぇ〜。」


「俺もびっくりしてるよ。」



 微かに嬉しそうに呟く母を横目に苦笑いを浮かべ、かかとを踏みながら靴を履き扉を開けると。昨日見たばかりのあの黒猫のような少年が立っていた。



「……いらっしゃい。」

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虚偽 天原陽太_ひー @hi_kirehashi

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