虚偽

天原陽太_ひー

壱話-不思議な少年

 キーン コーン カーン コーン――



「んじゃな〜、泰斗やすと〜。」


「うん、また明日。」



 やっぱり、目がかすむな。帰ったら目薬でもさすか。


 高校2年生、まだまだ青春せいしゅんさかりの春。彼、山口泰斗やまぐちやすとは夢も希望も何も抱かず、唯々ただただつまらない日々を過ごしていた。帰路きろ途中とちゅう視界しかい違和感いわかんがあるのか、少し目をこすると。



「ねぇ……貴方あなたは、だぁれ〜?」


「誰って…………っ!?」



 変な声だな、なんて思っては。声をかけられた後ろを振り向くとそこには目玉が無く、血を流し、"この世のものでは無いモノ"だった。すぐ前を向き、堤防ていぼうの方へ逃げ出す泰斗を他所よそにその"怪物かいぶつ"は追いかけて来る。


 やばい、やばい!何だよあいつ、目が無かったぞ!?



「……うわっ!?」



 息を切らし、怪物から逃げている泰斗の足がもつれる。覚悟して目をギュッとつぶるとその瞬間、泰斗の横に不自然ふしぜんな風が通った。



われ二憑ものヨ,けがレヲはらエ』



 声変わりしたてなのか、少しかすれている低い声が聞こえた。急に何が起きたか分からず、コケてしまった体を起こし振り返ると。そこに居たのは少し長い黒髪に、そこから細く黄色の目を覗かせている少年だった――。



 目を見開き驚いていると、その少年がこちらに視線を向けた。そしてしばらく見つめられると、チッと舌打ちをされる。



「こんなやつが俺のあるじかよ……。」



 そう、嫌味いやみのように呟かれる。


 主……?何のことだ、意味が分からない……。


 彼が混乱している所にその少年がってきて、鋭く光る目を泰斗に見せながら目の前までやって来る。



如月肆谷きさらぎよつや御前おまえびとだ。」



 付き人……憑き人???何だよこいつ。上から目線だし、取りあえず名前だけでも言っておくか……?


 そんな事を考え、泰斗の目の前に立っている彼の目を見ると。尻もちをついたまま話し出し。



「っと……、俺は山口泰斗。あの~……憑き人って……?」



 恐る恐るその肆谷と名乗る少年に聞くと、その少年は驚いたように目を見開き、しばらくして口を開いたかと思えば。



「御前……記憶が無いのか……?まぁ、良い。ついて来い。」


「……は? ぇ、ちょ待ってよ!」



 軽蔑けいべつするような目で見られながら呟かれたかと思えば、今度は泰斗の手首を掴み。そして、引っ張って行く。困惑こんわくしている泰斗を差し置いて、肆谷は淡々たんたんと歩みを進める。


 いつの間にか駅に着いており、どこに行くのかと疑問に思うのもつか。肆谷は切符を使わずに改札を通ろうとしていた。



「おまっ!切符は!? ――っ!?」



 それに気付いた泰斗は、肆谷に伝えようと声を出すが。その瞬間、黒いきりのようなモノに包まれ、咄嗟とっさに目を瞑る。少年に掴まれている感覚はまだある。それに、周りの匂いが変わった。少年は足を動かさない。胸をドキドキさせながら、ゆっくりと目を開くと。そこは、山のふもとにある小さな駅だった――。



「どこ、ここ……。」


「……それも分からないのか。」



 知っていて当然と言いたげな言い方をされて、更に困惑していると。一本の電車が来た。これなら分かる。チンチン電車、所謂いわゆる路面電車ろめんでんしゃと言われるモノだ。だが、日本の路面電車は少なくなっているはず、しかもかなり古い。なぜこんな所に……。



「ほら、行くぞ。」



 いつの間にか離されていた手首を再度さいど掴まれ、引っ張られて行く。「あっちょっ!」などと、間抜けな声を出しながら。





 ――気まずい。あれからずっと無言だ。なぜか手首は掴まれたままだし、話しかけられないし。いっその事逃げるか……?いや、無理だ。ここがどこかも分からない。取りあえず大人しくついて行くしか無いか……。



「降りるぞ。」



 掴まれている手首を引っ張られ、気が乗らないまま電車を後にすると。今度は古いバス停に連れられた。しばらく周りを見ていた所。ここは古い村って所だろうか、所々ところどころ少し大き目の家がある。店とかもあまりない。そしてここが山と言うことだ。どこに連れてかれるのかなんて想像が付かない。まぁ、今更どんな目にったってどうでも良いが。


 そんな事を考えている間にバスが到着し、少年は乗るために歩み始める。勿論もちろん泰斗もだ。バスの中はガラガラで少年と泰斗以外に誰もおらず、少し不安になってしまう。一番後ろの席に座ると、そういえば肆谷と言う存在について一切知らないな。と、移動している間彼の事を観察しようと考える。

 まずは容姿。さっき言った通り、黒髪に黄色の目をしている……まるで黒猫の様な見た目だ。そして次に年齢。背は自分よりは若干低く、服も学ランなので多分年下なのだろう。洞察力どうさつりょくが特にない自分にはこれぐらいしか分からない。


 ――はぁ……移動にも疲れた。外を見ても山な為、ただ木があるだけ。正直飽きた。そんな事を考えて十分経った頃だろうか。やっと目的地に着いたのか、バスが止まった。そして少年が立ち上がり。



「ついて来い。」


「あっ、うん……。」



 さっきまでの連れ方はせず、一つ言葉をこぼし。そして一人降りて行く。泰斗も彼に続いて降りると、そこは途轍とてつもなく大きな敷地しきちの門の前で――。

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