マッチングアプリで元妻とマッチングした件

ゴローさん

マッチングアプリ

 俺、吉田博人は三年前に離婚した。



 大学の頃に付き合った彼女と、五年間付き合った末に結婚した。

 最初のうちは、幸せだった。

 子供も一人生まれた。


 でも、その幸せはだんだん壊れていった。


 俺が、会社で仕事を頑張るに連れて、家で仕事の残りをすることが多くなり、家族と過ごす時間がだんだん減っていったのだった。


 家族には申し訳ないと思っていたのだが、早く課長や部長になるためには、避けて通れない道だったのだ。


 そして、あと一年間、その努力を継続したら課長になれると、言ってもらった日の夜。


 俺は、妻に離婚届を突きつけられた。


「こんなにあんたが家庭よりも仕事を優先するなんて思わなかったわ!さようなら」

 みたいなことを言い残して、家から出ていってしまった。


 しかも、子供は勝手に連れて行ってしまった。


 辛かったが、自分のせいだと思って、一生懸命仕事を続けた。


 それから3年。


 同僚の中でも、結婚している人が増えてきた。

 嬉しそうに愛妻弁当を食べている人を見たとき、泣きそうになった。

 ――自分も昔はあんなに恵まれた環境だったのに、それを守りきれなかった。

 そのことが悔しくて、幾度となく家で泣いた。



 そんななか、まだ、結婚していない同僚が、一緒にマッチングアプリをやってみよう、と声をかけてくれた。


 妻への未練が少しづつ、薄れてきていたので、それもいいかな、と思い、俺も始めた。


 近くに住んでいる人を探すのはもちろん、なんとなく自分と同じバツイチが良いな、と思った。


 あとから考えたら、これが、運命を変えたのだろう。



 でもそんなことを、このとき知る由もなかった。

               ◇◇◇

 アプリを使用し始めて3ヶ月。

 ミクという人と仲良くなっていた。

 趣味も同じものが多くて、大学生活に戻ったようだった。


 そんなある日、仕事から帰って、マッチングアプリを開くと、

「今度実際にあってみませんか?」

 というメッセージが入っていた。

 考えてみると、女の人とふたりきりで出かけるのなんて、妻と出かけて以来かもしれない。

 だから、なにか思うところがなかったわけではなかった。


 でも。


 過去の失敗を乗り越える第一歩として、承諾することにした。

              ◇◇◇

 待ち合わせ場所は、近くの大きなホテルになった。

 僕は、待ち合わせ場所に時間の15分早く着いた。

 ソワソワして待っていると、

「吉田さんですか?」

 という声が聞こえた。

 どこか、懐かしさを感じる声を受けて振り返ってみると、



        

 そこには、元妻がいた。

 お互いに、事実に気づき、固まる。


 先に、その状態から抜け出したのは、俺だった。

「とりあえず、店、予約しちゃってるから、いこっか。」

「え、えぇ」

              ◇◇◇

「僕のことを全く知らない人だと思って聞いてくれ。」

 頼んだ料理が出てきてから、俺はそう言って、言葉を紡ぎ始めた。

「俺は、好きだった妻に3年前に離婚を迫られたんだ。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「当時は、とてもつらかったし、とてもじゃないけど、仕事は手につかなかった。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「でもそれを乗り越えて、がむしゃらに仕事をしているうちに、自然と考えなくなっていった。、、、いや、違うな。考えないようにどこかで制御していたんだと思う。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「でも、同僚が愛妻弁当なんかを持ってくると、たまに思い出して、、、とても寂しかったんだ。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「だから、マッチングアプリを始めたんだ。、、、まあ単純だよね?」


「・・・・・・・・・・・・・」


「で、今日初めて女の人と、マッチングアプリを介してあったわけなんだけど、、、今日来るときに、妻への未練を断ち切ったつもりだったんだけど、、、、、、」


「・・・・・・・・・・・・・」


「、、、、、、断ち切れてなかったみたいだね。」

「ッッツ!わ、私のは、独り言だと思って聞いて!」

「うん」

「私、結婚生活はすごく楽しかったの!」


「・・・・・・・・・・・・・」


「でも、私のママ友がね、家族の時間を取れない夫なんて、ろくでもない人ばっかりって言ってたの。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「最初は信じてなかったけど、何回も何回も、そうやって言われて、、、あなたにも相談しようと思ったんだけどね、あなたがあまり家にいなかったから相談できなくて、、、」


「・・・・・・・・・・・・・」


「その後、その人に、もう別れるしかないって言われて、、、もう何も考えられなくなって、、、って、他の人のせいにするなんて最低だよね。」


「、、、、、そんなことない」


「えっ?」


「そんなことない!」


「でも、、、」


「よし!好きだ!結婚しよう!」


「そ、そんなぁ、、、」


「もう、何も考えずに、離婚したんなら、何も考えずに再婚しよう!            

              ◇◇◇





 1ヶ月後の、博人の日記。





 今日の弁当は美味しかった!

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マッチングアプリで元妻とマッチングした件 ゴローさん @unberagorou

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