葵、お風呂に入る。
湯気の立ち昇るお湯を頭から浴び、稽古の汗と埃を落とした後で私は慎重に湯船に足を沈めます。
「はじめて入った時はびっくりしましたね……」
歴史ある家屋とはいえ、まさかお風呂が五右衛門風呂とは。
底が鉄板になっていて、下で薪をくべてお湯を沸かす時代劇のようなお風呂。今は薪ではなくガスを使っているようですが、それでも江戸時代にタイムスリップしたかのような気分になります。
ヒノキ造りの風呂桶もまた、風情があっていいものですね。
浴室にそなえつけてある鏡に、髪をお風呂用にアップにした私が写っていました。
自分で言うのもなんですが私は私があまり好きではありません。
高校生になっても身長はあまり伸びませんし、体も引き締まってはいますが女性らしさに欠けます。
私服で外出すると、この年になっても小学生に間違えられることもありました。
ふくよかなアレクシアさんや、大和撫子という言葉がぴったりな中島さんに憧れます。
中島さんはアレクシアさんほど胸が大きくありませんが、お茶を淹れるために腰を下ろすときのヒップラインが非常に美しいです。
考え事をしていると、頬に冷たい感触。
アレクシアさんの援助で改築したというヒノキの天井から水滴がぽつりと落ちて。
私は手刀でそれを弾きます。空中で真っ二つになった水滴は、私の身体を避けるように風呂桶の端と端に落ちていきました。
水滴は人と違い気配がないので、タイミングを合わせるのに初めは苦労しました。柳生さんの読みの深さは、こんなところでも養われてきたのでしょう。
「内弟子になって本当に良かった……」
勢いで実家を飛び出してきたような形になりましたが、今はそう思えます。
中島さんは誠実な人柄ですし、アレクシアさんも腹黒いところはありますがたくましくもあります。
柳生さんは尊敬できる人柄ですし。
私も自分がお人よしだという自覚はあります。でも、人をむやみに疑うのはどうしても気が引けてしまって。結果、バカにされたような目で見られることも多いのですが、柳生さんからはそんな感じが一切ありません。
おそらくですが。
人をバカにしたり見下したりすることが、嫌いなのでしょう。
「それにしても……」
私は内弟子入りした当初、風呂場にすら持ってきていた愛刀正宗を立てかけておいた一角に目を向けます。
昼はああいいましたが、やはり女としてはじめては大切にしたいもの。
立場をかさに着て無礼を働いてきたら、切り捨ててやろうと持ち込んでいたのですが全くそんな気配がなく、刀が痛むといけないので最近は持ってこなくなりました。
「紳士的なのはいいのですけど」
アレクシアさんや中島さんには男の目をむけることがあるのに、私に対しては一向にその気配がありません。
私の身体はそんなに魅力がないのでしょうか。
最近始めた豊胸マッサージというものを行いながら、もう少し湯舟を楽しみます。
~運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる~ 霧 @kirikiri1941
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。~運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます