第3話


 ────契約に基づき継承の儀を行います。


 ────イレギュラーが発生しました。これより、継承の儀から戴冠式へと移行します。


 ────完了しました。戴冠式を行います。



 まるで頭の中に直接話しかけられているかのような不思議な現象に、思わず目を開ける。

 せっかくの眠りを妨げられたんだ、文句の一つや二つは言わせてもらおう。

 そう思っていた俺だが、目に飛び込んできた光景に言葉を失った。


「なんだここは……」


 大神殿のような豪華絢爛という言葉が似合う美しい造りで、そんな部屋の最奥にある玉座に俺は座っていた。

 状況は理解はできていないが自分が今どうなっているかだけは確認はできた。

 だが、肝心の声の主が見つからない。

 それと、継承の儀とか戴冠式とか言ってたけどなんの事だ?

 儀式ならつい数時間前までまで成人の儀に参加していたのだが。

 いやもう何でもいいや。

 とりあえず今日は色々あって疲れてんだ、頼むから休ませてくれ。



 ────戴冠式への参加をオススメします。



 いや、俺の意思は?

 ていうか、戴冠式って普通国王陛下とかそういう地位になる人がやるやつだろ。

 寝起きと言うかほぼ眠っているような状態の人間に儀式に出ろってかなりきついと思うんだが。

 ……待てよ?

 今気づいたんだけどさ、俺いつの間にそんな儀式やってるところに連れてこられたの?


 少しずつ冴えてきた頭に次々と疑問が浮び上がる。

 もしかして俺誘拐でもされたか?

 うーん、だとしたらマズイな。こんな不名誉な醜聞が他の貴族達に広まったら家に迷惑がかかってしまう。

 何とかしてバレる前に帰らねば……。



 ────これはマリウス様の夢の中でございます。


 ────肉体ごとこちらに来て頂くには、継承を先に済ませなければならない為、先に意識のみ転送させて頂きました。


 ────それでは、「天啓」の契約に準じ戴冠式を開始致します。



 寝起きで理解出来ていない脳に次々と情報を送り込まれるせいでさらに混乱してきた。

 何とか状況を把握しようと儀式の最中にあれこれと質問を重ね、現在の状況と儀式について知ることができた。


 どうやらこの声こそが俺に与えられた【固有スキル】の「天啓」で、今行われている戴冠式は「天啓」を得た者に贈られる権能と幻想の土地、それに関連する特殊アイテムを貰う為に必要な手続きらしい。

 まさか【固有スキル】の取得にそんな面倒なことが必要だとはな。

 まったく、いつから俺は夢の中まで面倒事に出会うようになったんだ?


 何をすればいいかも分からない俺は、とりあえず「天啓」が案内する通りに戴冠式を終え、黒い二つの指輪を受け取った。

 どうやらこの指輪は、先程の戴冠式で贈られた土地を管理する為に必要なものらしい。

 この土地について聞いたところ、だいたいの仕様が前世でやってたシュミレーションゲームや育成ゲームに似ていて楽しそうだということが分かった。



 ────他にご不明な点はございませんか?



「あ、あぁ。一応大丈夫だと思うが」



 ────それでは、マリウス様の意識を元のお体に転送致します。


 ────これ以降は、その指輪を使用すれば肉体ごとこちらに渡ることができます。


 ────戴冠式お疲れ様でした。



 変な夢を見た気がする。

 なんか大事なことだったするんだけど靄がかかったような感じで思い出せないんだよな。

 まぁいいや。大事なことなら暫くすれば思い出すだろ。

 オーエンが呼びに来る前に身支度を整えようと起き上がった。

 すると、カランッという音とともに何かが床に落ちる。


「この指輪って……!」


 音がした方を見ると、見覚えのある黒い指輪が二つ床に落ちていた。

 それと同時に忘れかけていた夢の内容を完全に思い出す。

 そうだった、俺たしか戴冠式に参加させられて、「天啓」によって権能を与えられたんだった。

 それならこの指輪は……。

 恐る恐る拾い上げて夢と同じ両手の人差し指につけてみる。


「いつ採寸したんだって聞きたいくらいだな」


 まるで俺の為に誂えたと言われても不思議じゃないほどピッタリだった。

 指輪を眺めていると、耳元でキーンっと音がして聞き覚えのある声が響いた。



 ────接続開始。暫くお待ちください。



 「わぁっ、びっくりした!?」


 突如聞こえた声に驚いて辺りを見回す。

 本当にこの声の主はどこから話しかけているんだろうか。

 遠隔魔法にしては精度が高すぎる。

 それとも、主の御業というやつだろうか?

 いや、それにしては話し方が丁寧過ぎるな。



 ────接続完了、回答致します。私の声は遠隔魔法と音魔法を利用して主様の元にお届けしております。



 そうだったのか。

 二種類の魔法の合わせ技か。

 使える人間はごく一部の、それこそ各国の先鋭魔法使い達のみだった気がする。

 俺も一応使えるが、単体で使う時より飛距離や連射速度が落ちるから使いづらいんだよな。


「お前は魔法のコントロールに長けているみたいだな」



 ────「天啓」により権能を継いだ方のサポートとして我々は生み出されました。必要な能力は全て習得しております。



「まじかよ、それ辛かっただろ。俺も魔法の精度上げにはかなり苦労したからなぁ」



 ────ありがとうございます。そのお言葉を頂けただけでも私は果報者です。



 とりあえずこの声の主、呼びにくいから「天啓」と呼ぶことにしたが、味方だと思って大丈夫だろうな。

 最近は領地内に入ってくる敵か味方か分からない奴らのせいで疑い深くなっていたが、自分の【固有スキル】なら信頼出来る。

 これは頼もしい味方ができたなぁなんて思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「オーエンか?入っていいぞ」


「失礼します」


 あれ、オーエンってこんな声だったか?

 違和感を覚えてドアの方を振り返ると、胡散臭い笑顔を携えた恐らく天使だろう男が立っていた。


「え、誰?」


「あなたにお仕えする「天啓」の使いでございます」


 じゃあもしかしてさっきまで俺と話してた声ってお前だったってこと?

 驚き過ぎて声が出なかった俺の思考を読んだのか、男はニコリと微笑み、「はい」と肯定した。

 大丈夫だと分かってはいても、想像以上に信用していいのか分からない胡散臭い奴が来て俺は思わず頭を抱えて座り込んだ。


 いや待てよ、そもそも「天啓」って【固有スキル】なのに人型になれるのか?

 それとも元から姿があったのか?

 それだったらなんで夢では声だけだったんだ?

 教えてくれ「天啓」!この胡散臭い奴何者なんだよ!?


「あなた様の目に映る全てが真実でございます」


 いや分かってるけど理解が追いつかないんだよ。

 スキルが独立して自分で体もって動いてるなんて聞いたことねぇのよ俺は。

 なんなんだこの世界は……今更だけどなんで俺こんな世界に送られたんだよ!


 あー、頭が痛いしなんなら思考回路がショートしてる気がする。

 うんそうだ、多分これも夢だ。

 もう一回寝て起きたらきっといつも通りになってるだろう。

 そう思った俺は今世で生まれて初めての二度寝を決行した。



 この後、オーエンが俺を呼びに来てさらに一悶着あったが、色んなことが重なり過ぎて脳がショートしてた俺はその事にすら気付かなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲームの世界に未公開裏ボスとして転生したから後は主人公に任せます! 烏森明 @karasumori_akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ