第2話


 普段よりも着飾った状態で会場となっている大神殿に入る。今年成人を迎え他の奴らと同じように指定されている席に座ると、扉の向こうからこの大神殿で一番地位が高く、セルバード公国の権力者の一人でもある大司教様が歩いてきた。


 だが、俺の頭の中は先程判明した自分が裏ボスだったという真実で埋め尽くされていて、大司教様の有難いお言葉を聞いている余裕なんてなかった。


 考えても見ろよ!

 やっと父さんの引き継ぎが終わって、正式な侯爵として平穏な日々を送れると思った矢先にこんな事が判明したんだぞ!やってられるかっての!

 はぁ、一旦落ち着くんだ。まず、俺がこの十八年で分かったことを纏めよう。


 俺が転生した先はオルノスの世界だった。

 この作品の主人公は被害者ではなかった。

 そして、最悪な事に俺が転生したこの体はまだシルエットと固有スキル以外未公開の裏ボスだった。

 主人公一族は裏ボスの父親を殺した。

 主人公といずれ対峙する事になるかもしれない。


 はぁ?無理なんだが?

 なんでよりによって俺にそんな大役を押し付けたんだこの世界は!俺なんかした?普通にゲーム遊んでただけなんだが?

 あ、大司教様と目が合った。


「次、マリユス・グレンフィード!」


「はい」


 俺の番が回ってきたらしい。

 この成人の儀では、一人前の人間として認められると共に、【固有スキル】の有無、もしあればそれが何か教えて貰えるんだよな。


 元いた世界でならそういった設定はプレイヤーならゲーム画面のステータスを見ればわかるんだが、こっちの世界ではこれが現実で、そんなもの見えるわけが無い。

 まぁ、普通に考えて元いた世界でも、自分の情報がピコンって音と共に目の前に出てきたら怖いしな。


 話を戻そう。

 ステータスである【祝福ギフト】や【アビリティ】、【固有スキル】はこういう神殿の設備でしか分からないから、ちゃんと成人と共に教えて貰えるのは有難い。

 実際、この世界では今日この時まで自分が【固有スキル】所持者とは知らなかったって人もたくさんいるからな。


 ちなみにこのキャラ……あっ、いや俺の【固有スキル】は「最果ての叡智」だったはず。

 発売日に公開されたPVに一瞬だけ映った裏ボスのシルエットはすぐにSNS上で話題になった。

 俺も気になって公式サイトを見に行ったら、シルエットと【固有スキル】だけが載ってた。

 そういうことで、さすがに公式が公開してた情報なんだから間違えるわけないだろ?


「な、なんという事だ!」


「大司教様、どうなされましたか?」


「マリユス・グレンフィード、おぬしの【固有スキル】は「天啓」じゃ」


 なんて?

 大司教様もしかして目でも疲れてんのか?

 公式はそんなこと言って……もしかして俺が確認した情報って間違ってた?

 いやいや、公式サイトで見たんだからそんな訳ないだろ!きっと何かの間違えだって!


「それと「最果ての叡智」じゃな」


 いや、二個持ってんのかよ!

 お前マジで言ってる??どういう事ですか俺の体作った人?それともキャラメイクした人って言うべきか?どっちでもいいんだけど、どういう事ですかね!?


 はぁ、なんでよりによって主人公君と同じ二個持ちなんだよ。

 ただでさえこの世界では【固有スキル】持ちが1%未満って言われる程貴重なのに、俺なんで二個持ってんの?もう既に泣きそうなんだが?

 これは首を落としてやり直すべきなのでは?大司教様、すみませんがコンテニュー画面どこっすか?


「マリユスよ。おぬしの【固有スキル】である「天啓」と「最果ての叡智」はどちらもかなりのレアものだ。特に「天啓」、これは本来我々ヒューマンが得られるものでは無いのだ」


「そう、なのですか?」


「そうじゃ。今まで「天啓」の【固有スキル】を持って生まれたのは、天使かレリジェンのみじゃ。おぬしはきっとこの世界に新たなる道を示す者となるだろう」


 ここで言われているレリジェンとは、天使と人間の混血だ。この世界では、魔物、人間、天使が共存していて、中には異種族間の結婚でこういった混血の子が産まれてくることもある。

 ちなみに父の代からグレンフィード家に仕えているオーエンもレリジェンだ。


「ありがとうございます、大司教様」


「うむ、では下がりなさい」


「はい」


 なるほど、俺に救いは無いのか。

 というか公式なんで【固有スキル】片方隠してたんだよ!

 これ完全に一度敗北してからのセーブ画面からやり直す時のロードで開示されるやつじゃん。

 プレイヤーがなんでこれが効かないんだとか言い出したあたりに後出しで出てくるやつじゃん!


 はぁ……外側から見えるゲームの世界と内側から見えるゲームの世界って違い過ぎだろ。

 なんにせよ、俺は新たな道を示すとかいう面倒くさそうな事より自分の領地で平穏な日々を送りたい。


 この後成人の儀が無事終了し、解散になったところで、先程大司教様の後ろにいた神官が話しかけてきた。


「グレンフィード侯爵、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「えぇ、構いませんよ」


「こちら、大司教様がお持ちになられるようにと」


 そう言って渡されたのは綺麗な模様の入った水晶。入っている模様はどうやら神殿の旗と同じ紋章のようだ。


「通信用の水晶でしょうか?」


「はい。大司教様が主より祝福されし「天啓」を持って生まれし侯爵とは友好関係を築きたいと仰っており、こちらは我々からの友好の証です」


「……ありがとうございます」


 嘘だろ正気か?

 追い討ちをかけるように神殿陣営から友好関係を持ちかけられた。今すぐここで発狂しそうだ。


 神殿陣営は確か、この国家を治めてる公爵家とかなり険悪な仲だった気がするぞ?

 しかも我らがセルバード公国はグラハッセ王国から独立してまだ五十年ほどの小国で、軍事力はあるが国際的に見ると立場はまだ弱い。


 そんな国の侯爵に、国際的に地位の高い大司教様が友好的に接してくれるとは。

 裏があったら嫌だが、ここで下手なことを言って敵対するなんて一番危ないよな?

 しかも相手は大司教様の側近らしき人で、かなりの力をもつ。


 よし!長い物には巻かれろって言うし、とりあえず仲良くしておく方がいいだろな。

 特に、うちの領地は父さんの死後、国家の番犬とも言われている中央騎士が、大きな顔をしながら定期的に領地に入ってきて困ってるし、神殿とコネがあるって聞けば下手なことはできないだろう。


「俺の平穏の為にも貰っておくか」


 うん、きっとそれがいいだろう。





 ステータス


【名前】マリユス・グレンフィード

【種族】ヒューマン

【階級】侯爵

祝福ギフト】??

【アビリティ】??

【固有スキル】天啓、最果ての叡智


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