ゲームの世界に未公開裏ボスとして転生したから後は主人公に任せます!

烏森明

第1話


「奥様!!おめでとうございます!奥様と旦那様に似た美しい男の子ですよ!!」


(ここは何処だ?なんで俺はこんな場所に?)



 誰でもいいから話を聞いて欲しい。俺、四季しき涼也りょうやは目が覚めたら赤ちゃんになっていた。


 何言ってんだこいつってなるだろ?でも本当にそういう状況なんだよ!なんならどうしてこうなったのか俺が聞きたいくらいだよ!


 よし、一旦落ち着け俺。とりあえず今思い出せる範囲のことを思い出して整理してみよう。


 確か今朝、俺は数ヶ月前から予約していた『オールドスター・ノスタルジア』を遊んでいた。まだ初日で何一つ攻略情報が出回っていない中、SNS上でネタバレを踏まない為に、なるべく早めにクリアしようと朝から休まずに遊んでいたのだ。


 それで確か……そうだ!実家暮らしだった俺は母さんに頼まれて弟を駅まで迎えに行った。夏休み初日で大荷物だと聞いていた為、運ぶのを手伝おうと車を降りて待っていた。そこに、居眠り運転の車が突っ込んできたんだ。


 あぁ、思い出した。俺は間違いなくあの時に死んだ。衝突時の全身の痛み、周囲から聞こえる「救急車!」という叫び声、そして弟が俺を呼ぶ声が今でも耳に残っている。



 それなら何故、俺は赤ちゃんとしてここに居るんだろう?もしかしてこれが俗に言う転生?え、俺転生しちゃったの?記憶そのままで生まれ変わっちゃったの?幼少期ハードモードか?


 そう思っていると、俺を産んだ母親らしき人が俺を優しく抱きしめながら口を開いた。


「この子はきっと旦那様のような素晴らしい子に育つわ」


「えぇ、私もそう思います」


 あぁ、これは母親だな。

 弟が産まれた時、俺の母さんもそんな顔してたもん。あれ、今の母さんはこの人だから、前の母さんって言うべきなのか?


 なんというか、実感湧かないし自分の事なのに他人を見てるみたいなんだよなぁ。

 突然過ぎて理解が追いつかないわ。


 ていうか、ここどこの国だよ。こんな中世ヨーロッパみたいな部屋もってんのどっかの王室か貴族くらいか?


 え、じゃあ俺そういう家に生まれたってこと?もしかしてめっちゃ小さい頃からめっちゃ難しい本とか読まされて色んな事学ばされて自由がない生活とか送る感じ?……チェンジでお願いします!


 記憶消して貰えないんだったら生まれる先くらい選ばせてくれ!!絶対無理だって!俺そういうの向いてないから!


 そもそも勉強とかまじで向き合えない俺がそんな家で生きていけるわけないだろ!今すぐリセマラをさせてくれ!頼む!!


 そんな悲痛な俺の願いは当たり前だが叶うことはなく、俺は名家の一人息子として第二の人生をスタートすることとなった。


 幼少期から学ぶことが多く、侯爵家故にマナーにも厳しい家庭だったが、おかげで色んなことが分かった。


 まず、俺が転生したのは元の世界ではなく、死ぬ一時間前まで遊んでいたオールドスター・ノスタルジア、略してオルノスの世界だったということ。要するに、異世界転生をしてしまったという訳だ。


 しかも、俺の生まれた国はまだゲームでは実装されてない裏ボスのいる地として名前だけ公開されている国。変なことに巻き込まれたくないから、主人公の住む国じゃなくて良かったけど、裏ボスが住んでる国ってかなりヤバくない?


 後、予想外だったのは両親ともに一人息子の俺に非常に甘いという事だった。


 俺がやりたい事は基本的に反対されず、想像以上に自由な生活を謳歌していた。


 俺もしかして前世で知らない間に徳を積んでたのかもしれない。偶に前世を思い出して寂しくなるけど、基本的には幸せいっぱいの温かい家庭だった。

 


 ────そう、あの日までは。



 十四歳になった頃だった。隣国が戦争の真っ只中という事もあり、俺の住んでいるセルバード公国は難民の受け入れが国内の混乱を招くと考え、国境付近の警備に力を入れていた。しかし、それでも一部の難民が国境を越えて入ってきてしまっていた為、グレンフィード侯爵、つまり俺の父さんが現地の指揮を執ることになった。


 しかし、ちょうどその時、隣国グラハッセ王国と戦争をしていたハルバード王国がこのままでは負けてしまうという焦りから、未完成の高出力魔導砲を前線に向かって撃ったのだ。


 そして、未完成だった魔導砲は見事に前線を飛び越え我が国の国境付近に設置されていた検問所を直撃。その場にいた父さんは帰らぬ人となってしまった。


 加えて魔導砲の威力が高過ぎた為、その場に居た人間達は骨のひと欠片も残っていなかった。


 遺体すら戻ってこないと知った母さんは悲しみにくれ、もう二度と戻ってこない父さんを想い泣き続ける日々。

 徐々に衰弱していき、ついには倒れてしまった。

 俺は倒れた母さんを看病しながら、せめて父さんの守ってきた家を守ろうと地位を継承して未熟ながらも仕事をこなす日々。


 幸いにも父さんの周りで働いていた人達が良くしてくれて、数年もしないうちに大体のことは対処できるようになった。


 そんな中、戦争に負けて追放となったハルバード王国の王子がグラハッセ王国内にいるという噂が広がり、捜索が始まったと知った。


「関係のない戦争に巻き込まれた俺達への謝罪を一切せず、負けそうになったからと国を手放して逃げたクソ王族がこっそり生きてるなんてな」


 何一つ戻ってこなかった父さんの墓は今も空っぽだ。少しずつ立ち直ってきた母さんも、父さんの命日が近づく度に悪夢に魘されている。


 十八歳になった俺は正式に爵位を継いだが、この数年は本当に地獄のような日々だった。


 国を捨てて他国に亡命した王家の人間が今さら自分の国を取り戻したいなど……、いや待てよ?


 なんかオルノスのストーリーに似てないか?主人公確か亡国の王子だったよな?え、まじ?そんな事ある?


 気付いちゃいけない事に気付いてしまった。

 ゲームを遊んでいる時は、王子可哀想と思っていたが、自分から戦争吹っ掛けておいて国民見捨てて逃げた上に他国にも犠牲だしてるとなると、いくら本人が直接やったわけじゃないとはいえ……うん、可哀想ではないな!同情できんわ!なんなら俺被害者だし!!


「坊っちゃま、成人の儀が始まってしまいますよ?」


「あ、忘れてた」


 父の代からうちに仕えている執事のオーエンが、成人の儀に合わせて作ったグレンフィード家の紋章入りの服を着せてくれる。


 その紋章を見ながらふと思い出す。

 あれ、これ裏ボスの背景にあった紋章だよな……?

 やばい、嫌な予感がしてきた。


「オーエン、この紋章は俺以外使えないんだよな?」


「もちろんでございます。坊っちゃま以外が使用することは重罪となっております」


 気のせいだ。きっと気のせいだ!そう思って鏡の前に立つと、非常に見覚えのあるシルエット……そう、未公開だった裏ボスのシルエットと殆ど同じものが映ったのだ。


 思わず「ヒョェッ」と殺しきれなかった声が喉からこぼれた。


 ────俺、裏ボスでした。








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