第6話

 すると部屋の扉が開いた。そこにいたのは女の夫、大輔だった。頭を負傷して運ばれたはずだが、救急隊員の制止を避けてここに戻ってきた。


「なんてことをしたんだ! この恥知らずガッ!!!」

 冬月は思い出した。女の横でたまに男がいたが、それがあの夫だ。すれ違った時ににこやかに挨拶されたが、確かにイイ顔をしていたが冬月にとっては何か違和感を感じていたようだ。


 大輔が近くに落ちていた椅子を手に持ち迫ってきた。あのイイ顔で無く、鬼のような形相で。


『これが本当のやつの正体だ。このまま奴が椅子を投げてきて怪我させれば今までのモラハラも露呈する』

 と冬月は考えていた。



「お前だってYES NO boysのグッズやツアー代を家計費から出して、足りないからってキャッシングもして! バレてんだぞ!!!」

 シバはエッ? と女を見る。彼女は顔が引きつる。YES No boysというのは人気アイドルグループのことである。彼女の言っていた楽しみの一つ、とは……それのことであった。


「えっ、どういうことっすか???」


「いやあああああああああああ!!!!!!!!」

 女の絶叫は部屋中に響いた。その隙に冬月は女の手に持っていた包丁を蹴り上げて泣き叫ぶ女を抱きしめた。


「大丈夫だ……そんなこと、君の受けた傷に比べたら……どうってことない。よく耐えた!! よーく耐えた!!!」

と女にそういうと彼女は冬月の腕の中で泣いた。


大輔は膝から崩れ落ち、また救急隊員に運ばれた。

「俺だったら奴らをズッタズタに殺してたさ……大怪我で済ませたあなたはまだ優しさが残ってた……子供たちの父親、祖父母だからという……」

周りには聞こえないように冬月が耳元で言う。


「まぁ、お金使い込んでた事は意外だったがなぁ……」

これは流石に女性には言えない冬月であった。

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