第2話 

 冬月はその後、その母子たちと会った道の近くにある駐在所の前でその母子を見かけた。どうやらリュックに買い物したものをその母親が背負うようになったらしくベビーカーは安定していたが息子の方がまだ歩き方に不安は残っている。


 駐在所からその母子を見ると息子がその冬月に気づいて手を振ってくれるようになった。

 母親の方も頭を下げ微笑む。

 気のせいか、前の化粧っけのない彼女が少しオシャレをするようになったのをみて心に余裕ができたのだろうかと冬月は思った。


 でもその顔の中には何か悲壮感、疲労感は漂っているのには彼にはわかっていた。


「母親って大変だろうな」

 他にもいくらかの親子連れは見ていたがその中の一人、気になるのはその母親が特に気になっていた。


 二人は特に話しかけることもなく日々この街でふと目にする市民と警察官、それだである。


「よくここを通る子づれのお母さん、お前がいない時もこの中覗き込むかのように通るんだよな」

 そう自分がパトロールから帰ってきた冬月は上司から言われる。


「お前はまだ若いもんなぁ、イケメンだしな。わしを見るとがっかりした顔される」

たしかに冬月はこの駐在所に赴任してきてから高身長でイケメンの新米警察官がやってきたと噂になり、中高年の女性市民や女子高校生とかが覗き込んだり絡まれたこともあった。

「イケメンだなんてー。てかその目つきで見たら睨んだと思われたんでしょう」

「こら! 確かにあのお母さんはもう少し化粧すればもっと美人だろうなあ」

「そうですかねぇ……あのままでも全然いいじゃないですか」

「お前、狙ってるのか」

「い、いや……俺には彼女がいますので」

「そうだったな」

 上司から図星的なことを言われドキッとした冬月。彼は惚れ症がたまに傷。苦笑いをしながらコーヒーを飲む。


「あの女性はな、確か町内会の会長の息子の奥さんなんだよ」

「ほぉ」

「まぁその会長と妻が……いわゆるこの辺ではモンスター住人って言われててな」

「ん? まさかあのよくなぜか俺がいない時に対応されている厄介な夫婦って」

 上司は頷く。冬月はまだ若く新人ともあってまだ長年この街の駐在をしていた上司の方に話をよくしやすいのであろう。


「すぐ近所の人の些細なことを報告して忠告してほしいってのは自分で手を汚したくないタイプでしょ。サイコな野郎だな」

「言葉は慎め。まぁそれもそうだが。だからその夫婦の息子の元に嫁いで同棲してるからなにかとお辛いんじゃないかなぁって」

「身内の方がもっと言いやすいですからね」

「……そうなんだよ。彼女が嫁いできたと思われるころからあの夫婦からの苦情はグンと減ったんだよ」

「はぁ……」

 冬月はやはりあの母親から感じ取られた悲壮感は……と勘が当たったのであった。


「まぁ外から見えない単なる妄想だしな、家の中のことは警察は介入できんからな」

「……そうっすよね」

「情はもったらあかんぞ」

「わかってますって」


 そんな会話をした数日後のことであった。

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