未完のボツ作品・異世界ディストピア(仮題)

シカンタザ(AIのべりすと使用)

証言「異世界最高権威」の人権侵害

タイトル:証言「異世界最高権威」の人権侵害

参考文献:ゲルハルト・シェーンベルナー『証言「第三帝国」のユダヤ人迫害』


篠突く雨をともなって七月の嵐がやってきた。スティレッフェン王の軍事的試みはすべて水泡に帰した。この国は「最高権威」に支配されることになったのである。アメリレイア王国は最高権威が率いる国、ザイヲに支配される。多くの人が抵抗をするがほとんどだが宿命論者のようにただなりゆきに身を任せようとする者もいた。

スティレッフェン王と政府高官は逮捕され裁判なしで収容所に送られるらしい。王宮内で最高権威のしもべたちが事あるごとに「万歳」と叫ぶ。すべての町でのぼせ上った軍隊が敵対者を襲撃し、家屋を破壊し、略奪していった。

最高権威による支配は、これまで誰も経験したことのないものだった。人々は恐怖と混乱のうちに日々を過ごした。そして何よりも、人々が恐れたのは、最高権威による支配が、個人や家族関係にまで及ぶことだった。

スティレッフェン王が捕まったことで、多くの市民たちは不安と不信に陥っていた。自分たちは最高権威の奴隷になるのか?自分たちの行動や考え方まで支配されるのではないか?そんなことは受け入れられない!しかしどうすればいいのだ……。

その日、アメリレイア王国の看護師、マリアと娘は町へ買い物に出かけていた。いつもなら、食料品を買うために市場へ行くのだが、この嵐では店も閉まっているだろう。それに、この国にはスーパーマーケットというものがない。わたしたちの住んでいる地区では、食料品はすべて商店街で買うことになっている。

マリアと娘の前には、数人の男が歩いていた。みんな兵隊のように、黒い制服を着て軍帽をかぶっている。男たちはこちらを見て何かささやきあっていた。すると突然、先頭の男が立ち止まり、両手を高くあげて叫んだ。

「最高権威万歳!最高権威万歳!」

兵士たちがいっせいにそう叫ぶと、また歩き出した。わたしたちは急いで家に帰った。あの人たちが何者なのかはわからない。でも、何にせよ恐ろしいことだ。いったいどうなっているんだろう……。

その日の夕方だった。夫が帰ってきた。わたしたちは夕食をとった。夫はいつもより上機嫌だったが、わたしたちは何があったのか聞かなかった。ただ黙って食事を終えた。やがて夫も仕事に出かけて行った。夜になって嵐はおさまったようだった。

その夜、夢を見た。不思議な夢だ。夢の中は真っ暗な闇の中で、何も見えない。何かが近づいてくる気配がした。何かが……誰かがやってくる。足音が聞こえる。何かがいる。何かが近づいてきた。何かが話しかけてきた。それは男性の声のようだ。しかし姿は見えなかった。その人は言った。

「こんにちは」

「あなたは誰?どこからやってきたのですか?」

「私は最高権威です。私はこの国の最高権威であり、支配者である。」

「あなたは、最高権威なのですね。」

マリアはうなずいた。最高権威は言った。

「わたしは最高権威になった。わたしは最高権威だ。わたしは最高権威だ。わたしは最高権威だ。わたしは最高権威だ……」

私が飛び起きたとき、汗びっしょりだった。夫が隣で寝ている。わたしは夫の頭をなでた。

家を出て大通りに入ると最高権威の親衛隊が挑発するように旧王国民の人々の間を歩き、時にはすれ違いざまに人を突き倒してみせることがあった。マリアたちは彼らを目で追った。彼らは最高権威の命令によって動いているのだろうか?最高権威の親衛隊は、アメリレイア人のことを見下しているようだ。

彼女たちは彼らに目をそらした。アメリレイアの人々は彼らが憎かった。彼らは最高権威の城の前に来たが城の門番に止められた。門の前には大勢の人が並んでいた。人々は最高権威に会うために来ており、最高権威は一人ひとりに会っていた。

人々が列を作って並んでいる。最高権威は人々の前に立って話をしていた。この時まで最高権威の姿を見たことがある人は誰もいなかった。ザイヲの官僚の説明によると、最高権威の姿や声の認識は、その人にとっての理想のものになるという。最高権威が言ったことはこうだ。

「私は最高権威です。私はこの国の最高権威であり支配者である。私はこの国の最高権威になった。私は最高権威だ。私は最高権威だ。私は最高権威だ……。私は最高権威です。私は最高権威になった。私は最高権威だ。私は最高権威だ。私は最高権威になった。私は最高権威になった。私は最高権威になった。私は最高権威になった。私は最高権威になった。私は最高権威になった……」

まるで催眠術に欠けられているかのようだった。人々の中から一人の男が叫んだ。

「俺たちはこの国に何を望んでいるんだ!?」

すると、その男は銃で撃たれて死んだ。

「私たちは最高権威に従うのみだ!」

人々は叫び声をあげた。最高権威は人々に話しかけた。

「みなさん、今日は私の城にお越しいただきありがとうございます。」

人々は最高権威に拍手をした。最高権威は続けた。

「私は最高権威です。私はこの国の最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です。私は最高権威です……」

「やめてーっ!」

年老いた女性が両耳を塞ぎうずくまって叫ぶ。

「最高権威は、この国の支配者であり、この国の最高の権威だ。最高権威は、この国の最高権威であり支配者だ。最高権威は、最高権威だ。最高権威は、最高権威だ……」

これは洗脳だ。

「私たちは最高権威に従うのみです!」

「最高権威は最高権威です!」

ザイヲの兵士たちが叫んだ。

「妄言だよ!こんなもん!」

マリアの旧知の仲である元アメリレイア王国兵士のジョナサンが叫んだ。

「この国の人間にはこの国の歴史がある。その歴史を否定してはいけない。この国の人々も必死なのだ。私たちの言うことにも耳を傾けてほしい。俺たちは自分たちの命を賭けているのだ。お前たちはどうだ?自分の命を賭けるか?違うだろう?」

ジョナサンが滔々と訴えると、最高権威が口を開いた。

「みなさん、おっしゃることはわかります。しかし、私は最高権威です。みなさん、最高権威は絶対です。みなさん、最高権威は絶対です。みなさん、最高権威は絶対です。みなさん、最高権威は絶対です……」

「その言い方をやめろ!」

ジョナサンが叫ぶと、ザインの親衛隊に拘束され、トラックへ引きずり込まれた。トラックはどこかへ行ってしまった。

「おしまいだ。何もかもおしまいだ」

帰り道でわたしがそう呟いていると、飲食店から下劣な歌声が聞こえてきた。

「めーをさませ。最高権威万歳。めーをさませ。最高権威万歳」

マリアは黙ったまま家路についた。

「最高権威は最高権威だ!」

「最高権威に従うのみです!」

「最高権威の命令は絶対です!」

「最高権威は不老不死です!」

「最高権威が最高権威です!」

「最高権威は無敵です!」

「最高権威は最強です!」

道路の壁にこんなメッセージが書かれたポスターがいたるところに貼られていた。

マリアは不安な気持ちで夫との夕食を過ごした。息子はザイヲとの戦いで出征し、戦死した。

「これからどうなるのかしら?」

「わからないよ」

「わたしたちも、刑務所に送られちゃうかもしれないわ」

「そうだな」

「あなたはどう思う?」

「どうって……?」

「わたしたちはどうなっちゃうんだろう?」

「さあな」

「わたしはあなたといっしょなら、どんなことがあっても耐えていけると思うけど……」

「おれもだよ」

「でも、ザイヲの言うとおり、このままじゃわたしたちも逮捕されちゃうわ」

「そうだな」

「ねえ、あなたはどう思う?」

「……いっそのこと隣国のクーザリュに亡命しないか?ザイヲは征服地で虐殺を行っているという噂も聞いているんだ」

「えっ……亡命って……」

「君も見ただろう。最高権威もそれに付き従う人たちも尋常じゃない」

「確かにそうね。狂気的だわ」

「ぼくたちはこのままだと殺されるかもしれない」

「はあ……。ザイヲって、どんな思想からこんなことをしているんでしょう?民族主義?革命思想?帝国主義?よくわからないわ……」

「わかることは、最高権威というカリスマが支配する独裁国家ということだけだね」

「そうね。ザイヲは、わたしたちをどうするつもりかしら?」

「わからないよ」

「わたしたちはこれからどうなるのかしら?」

「わからないよ」

「わたしはあなたさえいれば、それでいいわ」

「ぼくもだよ」

翌日、町の教会が炎で燃え上がっていた。野次馬が集まる。

「放火か!?」

「ザイヲの仕業らしいよ。あれを見て」

ザイヲの者たちが炎上する教会に歓喜しながら踊り、歌っている。

「最高権威万歳!」

「権威という概念は最高権威のもののみ!」

「めーをさませ。最高権威万歳。めーをさませ。最高権威万歳」

その光景に元アメリレイア王国民たちは呆然とする。

「あれが……ザイン……」

「あんなに……狂っていたか?」

「ああ……あの目、まるで悪魔だ」

「あれは……なんなんだ?」

「最高権威……なのか?」

その後、マリアは夫と共にクーザリュ共和国に亡命した。

クーザリュではアメリレイア王国からの亡命者により「最高権威」と呼ばれる独裁者によって支配されているザイヲという国の噂が広まっていた。酒場で若い男性二人組がそのことについて話をしていた。

「ザイヲって、この国の人たちも知らないような技術を持っていてるんだって」

「へえ」

「それで、その技術を使って、ザイヲにはどんな願いも叶えてくれる神様がいるらしいよ」

「そうなんですか」

「うん。その神様は、ザイヲっていう国を作ったらしいよ」

「神様ねぇ。実際の統治者である最高権威というのとどういう関係なんだい?」

「さあ……。実際にザイヲの人から聞かないとわからないなあ。でも、ザイヲは外国人との対話を拒絶するらしい」

「ふーん」

「あと、ザイヲでは、この世界では珍しい魔法が使えるらしいよ」

「珍しい魔法?例えばどんなものだい?」

「それは、わからないけど……」

「そうかい」

「でも、すごいよ!だって、どんな願いも叶えてくれる神様がいるんだから!」

「ちょっと、ザイヲを肯定するのかい?侵略されてここまで逃れてきた人もいるというのに」

「そんなことないよ。僕はただ、どんな願いも叶えてくれる神様がいるって聞いたから……」

「いるわけないだろうそんなもの」

「え?」

「いいかい?神っていうのはな、この世にはいないんだ。いや、いたとしても、それは人間が作り出した幻想にすぎないんだよ」

「でも、ザイヲには神様がいるって……」

「それはな、ザイヲっていう国での話だろう?ザイヲっていう国はな、自分たちにとって都合の悪いものを全部消してしまおうとしているんだ」

「そうなの……?」

「そうだとも。だからさ、こんな国には関わらない方がいいよ」

「でも……」

「それにさ、もし神様がいるなら、なぜその神様はザイヲを平和的に繁栄させてくれないんだい?」

「それは……」

「まあ、いないんだろうけどさ」

「……」

「とにかく、ザイヲには関わるな。それが一番さ」

「うん……」

「じゃあ、僕は仕事に戻るから」

「わかった」

「お大事に」

「ありがとう」

「どういたしまして」

マリアは夫やほかに亡命した人たちと共にザイヲがした仕打ちを訴えた。しかしその話はクーザリュの人たちにとって信じがたいものだった。

「あなたたちの話によると、ザイヲの人々というのははっきり言って気が狂った集団で、軍隊を作ったとしたらとても規律を持って行動することなどできないと思いますが」

「ですが、実際に存在し、私たちの国を倒したのです」

「そうですか。それは確かに困ったものですね」

「それで私たちは、あなたの国に助けていただけないかと思いまして」

「なるほど」

クーザリュの政府は会合を開き、ザイヲへの対応について話し合った。その結論は、ザイヲに対しては干渉しないというものだった。

「どういうことなんですか!?」

元アメリレイア王国民は議事堂へ押しかけた。政府広報曰く

「情報収集したところ、ザイヲの軍隊はとても強力で、しかもザイヲの人々は我々が平和的に交流することを望んでいないのです」

「アメリレイアを放っておくということですか!?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、我々はアメリレイア人のみなさんのことを心配しているのです」

「我々のことを?」

「ええ」

「あなたたちは、アメリレイアの人たちのことが見捨てるのですか!?」

「いいえ」

「だったら、どうして!」

「我々にはアメリレイア人の方々を助けることはできません。なぜなら、我々クーザリュ人はザイヲと戦争をする大義名分がないからです」

「そんな……」

アメリレイア人民は落胆した。


11時半ごろ、弁護士のヴィトィン・フィッターの事務所の廊下から野獣が吠えるような声が響いて、それがどんどん近づいてきた。弁護士室のドアが思い切り開いた。20名ほどのザイヲ兵士が次々に部屋に入り込み、「アメリレイア人は出ていけ」と怒鳴った。その場にいたフィッターとスタッフは麻痺したように動けなくなった。部屋の外では他の部屋に兵士たちが入って「アメリレイア人、出ていけ、出ていけ」と叫びながら建物の人たちを外の通りまで無理やり放り出していた。

兵隊の指揮官らしき人物がズカズカとフィッターのもとに歩み寄り、彼の腕を掴んだ。フィッターが振り払うと、男はすぐさま右袖から金属パイプを取り出し、力を加えると、そこからスプリングが飛び出した。その先端には鉛の球が固定してあった。この武器でフィッターの顔面を二度殴りつけ、彼は出血し、凶器が当たった部分は酷くはれ上がった。その後、フィッターの身体を蹴飛ばし、壁際に追いやった。そして、他の兵士とともに彼を床に押し倒し、上から押さえつけた。フィッターは激しく抵抗したが、まったく身動きできなかった。

それから、指揮官がポケットから何かを取り出そうとしたとき、突然、廊下の方で銃声が聞こえ、続いて爆発音が轟き、窓ガラスが割れた。兵士たちが動揺している隙を突いて、フィッターが立ち上がり、机の下に隠れると、銃を持った男が一人入ってきた。その男も銃を持っていた。フィッターが顔を上げると、そこにいたのはアメリレイアの警官だった。警官が銃を向けると、指揮官が部下に合図を送った。兵士たちがフィッターと彼に銃を向けた警官を取り囲むようにして立った。拳銃を握ったまま、警官がゆっくりと前進すると、指揮官が叫んだ。

「動くんじゃない!動いたら撃つぞ!」

「動くなって?なんでだよ?」

警官が訊くと、指揮官は答えた。

「そいつには仲間がいるんだ」

「違うって言ったろ?誰もいないよ。銃を持ってるのは俺だけだ」

警官がそう言うと、指揮官は笑った。

「銃を捨てろ!撃つぞ!」

警官が銃を構えると、指揮官は銃を構えた。

「撃てるもんなら撃ってみろ」

警官は言い返した。指揮官が引き金を引く前に、警官は指揮官に向かって銃を撃った。しかし、警官の銃から放たれた弾丸は、指揮官に当たる直前で弾け飛んだ。

「無駄だよ」

指揮官は笑った。その途端、警官は血を吹き出しながらゆっくりと倒れていった。

「これが魔法だ。信じられないことが起こっていると思っているだろう。アメリレイア人どもよ?我々に危害を加えようとした者を始末しろ!」

指揮官が叫ぶと兵士たちは部屋を出て警官の仲間たちに襲い掛かった。兵士は次々に彼らを葬った。

「さあ!次はお前たちの番だぞ」

指揮官はフィッターとスタッフたちに向かって銃を構えた。その時だった。部屋の扉が勢いよく開き、二人の女性警官が入ってきた。

「そこまでよ!」

二人は拳銃を構えていた。しかし、指揮官は余裕の笑みを浮かべた。

「無駄だよ。私には魔法で防御壁が張られている」

指揮官が言うと、二人の警官は指揮官に銃を向けた。

「無駄だって言ったろ?」

指揮官はそう言うと、引き金を引いた。しかし弾は出なかった。

「弾切れか?どうやらここまでのようだな」

指揮官は自分の拳銃を捨てて笑った。予想外の行動にその場にいたアメリレイア人たちは動揺を隠せずにいた。

「こいつらはお前らがやっていいぞ!」

指揮官は部屋に戻ってきた兵士たちに向かって叫んだ。兵士たちは銃を構えながらゆっくりと近づいてきたところで二人の警官が発砲した。

しかし、弾丸が兵士に当たることはなかった。兵士は警官たちの目の前で消えた。そして警官たちは意識を失った。

「これで終わりだと思うのか?」

兵士の1人はそう言うと銃を構えながらゆっくりと近づき始めた。しかし、突然兵士が血を吹き出して倒れた。すると兵士はゆっくりと立ち上がり、自分の体を見回していた。

「どうやら、俺は死んだらしいな」

彼がそう言うと、別の兵士の一人が肩に手を触れた。

「大丈夫か?」

兵士はああ、と言いながら仲間たちを眺めた。

「俺たちはどうなるんだろう?」

「分からない。ただ、何かしらの処置を受けることになるだろう」

「処置?それはどんなものなんだ?」

「さあな」

「なんだよ、それ」

「俺だって、そんなこと分かるわけないじゃないか。ただ、お前らの想像を絶するような恐ろしいことをやるんじゃないか?」

「そうかもな」

「そうだろうな」

異様な光景にアメリレイア人たちは凍り付いたように動けなくなっていた。

「撤収する!ついて来い!」

「はい!」

指揮官に連れられザイヲの兵隊は建物から去った。

フィッターは診療所のベッドへ運ばれ、お見舞いに来た妻のメリサと話をした。

「ザイヲの連中はとても同じ人間とは思えないね。魔法と言っていたが本当にそんなものがあると思えるようなものを見たよ」

「ここにいたらいつ殺されてもわかりません。他の人たちのようにクーザリュへ避難しませんか?」

フィッターの妻が真剣に問いかける。

「……ああ。それがいいかもな。私も脅迫で参ってたんだ」

ザイヲの軍が占領した地域のアメリレイア人の住宅の壁に「お前もチェックされている!」という落書きがされたり、夜中の住宅街でザイヲの連中が鳴り物で激しい音を立てたりしていた。

「手遅れになる前にする方が良いですわ」

妻の提案に頷いたとき、何人かの黒い制服を着たザイヲの公安警察が診療所に入り、フィッターを無理やり引きずり出し、町の広場まで連れ出された。そこにはあの時の2人の女性警官のうちの1人と事務所スタッフもいた。

「今から貴様らを裁判にかける」

裁判官らしき男がそう宣言すると、スタッフがフィッターを取り押さえ、ザイヲの兵士から縄を受け取った女性警官がフィッターの手足を縛り始めた。

「何をするんだ!私を売るのか!?離せ!この外道!」

「黙れ!」

ザイヲの兵士がフィッターの腹を思い切り蹴った。

「うっ……」

フィッターは悶絶して倒れこんだ。

「さあ、立て!」

女性警官がフィッターの背中を蹴り上げた。

「くそ!こんなこと許されると思っているのか!?」

「うるさい!」

ザイヲの兵士が再びフィッターの腹を蹴った。

「うっ……!」

「この男を裁判にかけろ」

裁判官の命令を受けて女性警官たちが縄を引き、フィッターを無理やり立たせた。

「さあ立て!」

フィッターを簡易の証言台まで連れていく女性警官がフィッターの背中を蹴った。

「くそ!」

フィッターは女性警官を睨みつけた。

「この外道め!」

「黙れ!」

女性警官がフィッターの腹を蹴った。

「うっ……」

「貴様は裁判を受けるんだ!」

「裁判だと!?こんなこと許されると思っているのか!?」

「黙れ!」

女性警官がまたフィッターの腹を蹴った。

「うっ……」

「貴様は裁判を受けさせるんだ!」

女性警官がまたまたフィッターの腹を蹴った。

「うっ……」

「被告人のフィッターは弁護士事務所の立ち入り調査を妨害する意図でアメリレイア王国の警官を呼びザイヲの兵士たちと戦闘させるよう仕向けた。異議申し立てはあるか?」

裁判官が尋ねた。

「はい!あります!被告弁護人のリデルです!彼は私を裏切ったんです!私の言うことを聞かず、ザイヲの兵士たちと手を組んで、警官たちを皆殺しにしたんですよ!そんな男が無罪になるはずがありません!」

裁判官はフィッターに目を向けた。

「フィッター!貴様は本当に自分の意思で警官を殺しさせたのか?」

「いいえ!」

「ではなぜ警官たちは殺された?その理由を述べよ!」

「私は……その……」

フィッターは言い淀んだ。

「なんだ!?はっきり言え!」

フィッターは再び腹を蹴られた。

「うっ……」

「貴様は警官たちをザイヲの兵士たちに引き渡させた!」

「はい……」

「それは貴様の意思か?」

「いえ……」

「貴様はザイヲの兵士たちが警官たちをどうするか分かっていたのか?」

「いいえ……」

「貴様は警官たちがザイヲの兵士たちに殺されることを知っていたのか?」

「いいえ……」

「貴様は警官たちの死に責任があるのか?」

「いいえ……」

「貴様は警官たちをザイヲの兵士たちに引き渡させたのか?」

「いいえ……」

「審議を終了する!被告人を銃殺に処す!」

フィッターは女性警官に引きずられ、死刑場に連れていかれた。

「おい!待ってくれ!俺は無実なんだ!ちゃんとした裁判をしてくれ!」

「黙れ!お前のようなクズ野郎の話を聞く価値なんかないんだよ!」

「頼む!助けてくれ!」

「うるさい!」

フィッターは殴られた。

「うっ……」

フィッターは引きずられて、処刑台の上に登らされた。

死刑執行人はライフルを構えた。

「うわあああぁーっ!!」

銃弾数発がフィッターに撃ち込まれ絶命した。

そのころ、メリサは子供2人を連れてアメリレイア王国の国境を接するクーザリュのトトペウ市まで避難していた。彼女は視聴者に招かれていた。

「ザイヲの人間はまるで子供の気まぐれのようにアメリレイアの人々を殺してしまいます。夫もおそらく殺されているでしょう」

彼女が涙ながらに市長に訴えかける。

「大丈夫です。あなた方の安全は必ず保証します」

市長が穏やかな口調で語りかけた。

「ザイヲの侵略は留まることを知りません。クーザリュにも攻め込んでくるかも……」

「いいえ……そんなことはありません……」

予想外と言った顔で彼女は市長を見つめる。

「なぜですか?」

「ザイヲの人たちがどんなに恐ろしいことをしたとしても、私たちには関係のないことです……」

「そんな……」

彼女は落胆の表情を浮かべた。

「私はザイヲの人と結婚しましたけど、ザイヲの人が悪いなんて思っていません。ザイヲの人も普通の人間と同じですから……」

「その考えは甘いですよ。実際のザイヲがやった仕打ちを見てないからそんなことが言えるんです」

彼女は語気を強めて言った。

「そうですね……」

市長が力なく返事をする。

「ザイヲがこのクーザリュに攻めてくる可能性はありますよ。他の国と連携してザイヲを叩くべきです」

「そんなことありえません」

「どうしてですか?」

「だって、ザイヲは私たちに何もしてきませんでした」

「だから甘いんです!」

彼女は声を荒げた。

「あなたは……あなたたちは何もわかっていません! ザイヲは……ザイヲは……」

「ザイヲは私たちクーザリュ人のことをどう思っているのでしょう?」

市長はそう言いながら彼女の手を優しく握った。

「それは、もちろん……きっとクーザリュ人は自分たちよりも劣っているとザイヲは思っていますよ」

彼女はそう言って市長の手を振りほどいた。

「そんなことありません。私たちはザイヲと同じ人間です」

「そんなことはありません!」

彼女は声を荒げた。

「いいえ、同じ人間です。私たちクーザリュ人は、ザイヲの人たちを恨んではいません」

「それはあなたたちが何も知らないからです」

「でも、ザイヲの人たちも私たちと同じ人間です」

「どうやらいくら話をしても無駄のようですね」

「はい」

市長は寂しげに返事をした。その晩、彼女は眠れなかった。

「ザイヲは私たちと同じ人間です」

彼女はそうつぶやいた。

翌日から彼女はクーザリュで働きながらアメリレイアの同胞と共にザイヲの蛮行を証言する活動をし始めた。そこで語られる体験はクーザリュの人々に一種の怪奇小説のような好奇の目で捉えられ、「ザイヲ文学」と呼ばれる出版物が生まれた。しかし、それらの本はクーザリュの政府によって発禁処分となった。

それから数か月後、メリサはアメリレイアのザイヲ軍の基地に潜入したが見張りの男に見つかった。

「何者だ?」

「私は、あなた方と同じザイヲ人です」

「嘘をつくな!おまえたちはアメリレイアのレジスタンスだろう!」

「いいえ、私たちはあなたの仲間です」

「いいや、違う。おまえは我々と同じじゃない」

「いいえ、同じです」

「いいや、同じではない」

彼女は撃たれた。目を覚ました時、彼女はベッドに横になっていた。

「ここは……?」

彼女は起き上がろうとしたが痛みで体を起こすことができなかった。話を聞くと、彼女と一緒にいた仲間たちが見張りの男に持っていた棒で打ち倒し、地下のレジスタンスの隠れ家まで逃げ出したのだという。

「助けてくれてありがとうございます。足手まといになってしまいました」

「いいえ、我々の見通しが甘かったんです」

レジスタンスの男性が慰める。アメリレイア人の抵抗運動は熾烈なものになっていきザイヲも容赦のない対応をするが、クーザリュを含めた周辺国はなかなか動こうとしなかった。


夕食にアメリレイアのピシンの女性が夕食に友人を招いていた。友人は11時ごろに帰り、階下の玄関口まで送っていくと、往来がたいへんにぎやかだった。ザイヲの制服姿の男たちを乗せたトラックが何台も通り過ぎ、向かいの通信社にはたえず人が出入りしている。友人は、もしものことがあったら守ってあげられるかもしれないからこのままここにとどまると言ってくれたが、夫はその必要はあるまいと断った。彼女が上の階に戻ってテーブルの果物やたばこを片付けている時、近くで銃声が響き、離れたところで火の手が上がるのが見えた。

12時前、玄関のブザーが鳴った。彼女の家から数件離れたところにあるレストランのオーナーの奥さんのハートが、けがの手当てと身の安全を求めてきた。しどろもどろに語るところによれば、ザイヲの連中が家に押し入り、自分は逃げおおせたものの、ご主人は捕まってしまってどこかへ連れ去られてしまったそうだ。店のコック2人も一緒についてきていた。どこか近所のアパートの住んでいる老夫婦だ。

彼女の説明が終わったとたん玄関のブザーがけたたましく鳴った。ピシンが窓のカーテンの隙間からのぞくと、黒い制服に身を固めた男たちが家の前に集まっている。玄関を開けないでいると、重い扉は長靴にすぐ蹴破られた。ピシンと夫が玄関ホールまで行くとザイヲの公安警察の制服を着た男たちが数十名いた。隊長が尋問を始めた。

「さあ、何があったんだ?」

彼女は震えて何も答えられずにいた。そうしたら夫を拷問にかけて殺すと脅されたうえに、彼女と夫との性行為の場面を隠し撮りした映像を見せられた。男は部下の一人に命じるて写真を持ってこさせた。そこには二人の裸の写真が何枚も映っていた。彼女が夫と愛を交わしているところだった。男はそれを見て、彼女のことを美しいと言ったのだ。彼女は気味が悪くなった。こんなことは初めてだったので、怖くてどうしようもなかった。すると男がこう言った。

「この女にはもう用はない。この女の夫は今から我々が連れて行く。お前たちはここに残れ。そしてもし何かの拍子に誰かが訪ねてきても決してドアを開けるんじゃないぞ」

隊長がそう言うとピシンの夫が連れ出された。ザイヲの人間たちが去って残されたピシンは呆然と立ち尽くしていた。しばらくして玄関ホールまで降りてきた老夫婦の奥さんが重い口を開いた。

「あんたは本当に良い人だったのに……」

老婦人は泣きながらピシンに抱きついた。

「ごめんなさい。わたしのせいで旦那様は連れて行かれてしまった。あの人はきっと殺されてしまうわ」

老婦人は涙を流し続けた。老婦人の夫とハートも来た。

「あなたたちは良い人たちなのに、わたしは何もできなかった。本当にすみません」

老婦人の夫は謝り続けた。ピシンには、どうして良いのか分からなかった。涙は流さずとも心のなかで泣いているようだった。それから数時間、玄関ホールにずっと座っていたけれど何もできず、夜になった。老夫婦とハートは家に帰っていた。


未完

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