赤羽烈堂、結界を破る

「それでボス、どこに行くですカ?」

 守護隊部の部室を真っ先に飛び出した紅蓮小路ぐれんこうじ焔子ほむらこの背中に、マゼンタ・ソーマが声を掛けた。


「今のところわかるのはだいたいの方向だけですわ。後は手分けをして探すしか……」

「先日の旧校舎、例の二酸化炭素発生装置のところだ」

 焔子が最後まで言い切る前に、赤羽あかは烈堂れつどうの声が割って入る。


「わかるんですの?」

「結界の張られた場所はな。その後、術者が移動していればわからんが。追跡するなら急いだほうがいいだろう」

「それで赤羽さん、あの結界をなんとかできますの?」

「一応実家である程度の訓練はしている。まずは結界の中心近くに行くとしよう」

 そこまで言うと烈堂はきびすを返し、旧校舎へと駆け出す。

 緋山ひやまつゆを加えた他の三人もそれを追った。


    ◆


 あの一件から一週間。

 旧校舎の広大な地下室は、変わらずに淀んだ空気をたたえていた。

 二酸化炭素発生装置もまだ、処理に困って放置されたままだ。


「新しく付けた警報装置は解除されていましたが、ここにはもう誰もいませんわね」

 キャットウォークから地下室を見下ろしながら、焔子はつぶやく。

「結界を解くぞ。このままでは追跡もできん」

 そう言うと烈堂は、胸の前で両のてのひらを打ち合わせた。


 パァァーーーンッ!


 柏手かしわでひびきが波紋のように旧校舎に広がった。

 壁から、床から、天井から、そして二酸化炭素発生装置から、幾重いくえにも山びこのように反響が帰ってくる。


「……な、何!?」

 守護隊部で最も一般人に近いつゆが、おびえたように後ずさった。

 彼女を支えるかのように、マゼンタが肩に手を置く。


 大気を震わす音の波を浴びながら烈堂は、今一度手を打ち合わせた。

 今度は何の音も聞こえない。二度目の柏手の音も、その瞬間まで旧校舎を支配していた最初の柏手の残響さえも。


 不意に訪れた静寂の中――。


四乃舞しのぶ!」

 焔子が、幼馴染であるくノ一の名を呼ぶ。

 地下室を見下ろせば、そこには直前まで見えなかった三つの人影が現れていた。


 守護隊部最後の一人、朱藤すどう四乃舞の変身したヴァーミリオンレッドは、疲れ果てたかのように膝を付き、肩で大きく息をしている。

 その前には、彼女と対峙するようにもう一人のくノ一と、一体の忍者に似た姿の怪人が立っていた。


「今助けますわ!」

 次の瞬間、ためらう事なく焔子はキャットウォークから四、五メートル下の地下室へと飛び降りていた。


「おい待て……っ」

 烈堂が制止した時にはすでに、軌跡のように縦ロールの赤髪を後に引きながら、お嬢様の姿は手すりの向こうにあった。


「仕方ない。行くぞ、マゼンタ!」

 烈堂も躊躇なく手すりを飛び越え、ほとんど間を空けずマゼンタも飛び出す。


紅色変身スカーレットチェンジ!」

赤色変身レッドチェンジ!」

「まぜんた、ちぇぇんじぃ!」

 そのまま三人は空中で腕輪を掲げ、その姿を変える。


「……え」

 そしてキャットウォークには、つゆ一人が残された。


「……もう、あいつらだけに任せてもいいんじゃないかな」


 そう言いつつも、遅れを取ったつゆも腕輪を掲げ、変身する。

「……緋色変身クリムゾンチェンジ

 そして、地下室に下りる階段へと走るのであった。



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学園守護隊レッドセイバーズ 広瀬涼太 @r_hirose

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