第二話 古き良き時代
赤羽烈堂、上様の名を騙る
「すみません。領収書をお願いします」
二酸化炭素発生装置事件の翌週。
「領収書の宛名はどうされますか?」
「む……」
烈堂が言いよどんだのには、
だから烈堂は、無難な選択肢を選ぶことにした。それがどんな結果をもたらすのか、深く考えることもなく。
「『
そう答えた瞬間、レジの女性の表情が
「うえ……さま……?」
彼女の右手が動き、カウンターの裏側を探る。触れたのはおそらく、非常ボタン。
ほどなくして、異常を知らせるベルの音が購買部から周囲へと響き渡った。
「レツドーレツドー、今度は何ヤラカしたですカー?」
「いや待て、俺は何も知らんぞ」
疑問符を浮かべる烈堂の顔を指差しながら、レジの女性は声高に叫ぶ。
「上様の名を
まるで征夷大将軍を
その隙を突くかのように、バックヤードからわらわらと十人を超える警備員たちが駆け出してきた。
畳みかけるように、レジの女性が叫ぶ。
「斬れい斬れい、斬り捨てぇい!」
レジの彼女も警備員たちも、別に刃物を持っているというわけではない。せいぜいが警棒程度だ。
とはいえ、一般人と闘って倒すわけにも行かない。
「よかったなマゼンタ! きれいって言われたぞ!」
烈堂は出入り口に向けて後じさりしながら、隣のマゼンタを肩に
「んー。ニポン語むずかしいネー」
土のう袋か何かのように担がれながら、金髪美女の皮をかぶった日本人少女はひっそりとつぶやいた。
「欧米人か!」
短いツッコミを残し、烈堂は購買部を飛び出すと、大きく地面を蹴った。
地上から一気に二階の渡り廊下まで飛び上がり、追手たちを撒くことに成功した二人は、そのまま守護隊部の部室に向かうのであった。
◆
「まったく、
守護隊部の部室で、部長の
「ただのお使いも満足にできませんの?」
「ただのお使いなんかじゃなかったぞ、あれは」
「それで、なにやら時代劇のような言動ですか……」
「なあ、今回の一件、あんたのとこの忍者がなんか知ってるんじゃないか?」
「何ゆえそのような話に?」
「先日は水戸の御老公で、今回は紀州の米公方だ。何か関係があると思われても仕方あるまい」
「チャンネルが違いますわよ。それはさておき、似たようなことが起こったからと言って脊椎反射的に混同してもらっては困りますわね」
「シェキジュイ? ニッポン語でオケーでース」
「Oh, I’m sorry. I'll speak in Japanese from next time. って日本語で話していましたわよねわたくし!?」
「お嬢様、ツッコミが必要なノリツッコミは控えてくれないか。マゼンタお前も、話がまとまったら説明してやるから、そっちで緋山さんにマンガでも紹介してもらっとけ」
「エー」
なお、もう一人の部員、緋山つゆはというと、いつものように部室奥のソファーに腰かけ、文庫本を読んでいた。
そちらに向かったマゼンタの姿を追いもせず、烈堂は再び焔子と議論を進める。
「それで、今回の一件だが、洗脳とか催眠術の
「だとしても、目的がよく分かりませんわね。能力を使って時代劇ごっこをするだけとも考えにくいでしょう」
「それより、一般人が巻き込まれるのはまずいんじゃないか。ここで議論をするよりも、騒ぎの元を探したほうがいいんじゃないか?」
「そうですわね。早急に元凶を特定する必要がありますが……巡回に出て行った
「やっぱり――」
何かあったんじゃ……そう言いかけた烈堂の言葉が、不意に止まる。
同時に、まるで弱い電流でも流されたかのように、焔子の体が強張る。
「おい、今のはまさか……?」
「結界術ではありますが、四乃舞のものではないようですわね」
焔子は立ち上がり、マゼンタとつゆの方に向き直る。
二人は何事もなかったかのように、本棚の本を物色していたが、急に焔子たちが静かになったことで、ようやく異変を感じ取ったらしい。
「レツドー? 何か事件ですカ?」
「まだ良くわからんが、ここでじっとしているわけにもいかんようだ」
焔子は踵を返し、部室の出入口に向かう。烈堂たち三人もそれに続いた。
「守護隊部、全員出動ですわ!」
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