緋山つゆ、布教する

「ははははは、この発明マンの大発明、ジェットランドセルの力を――」

 勝ち誇るような台詞をさえぎるかのように銃声が響く。


「スーパーバリアー!!」

 発明マンの周囲に現れた半透明の壁が、マゼンタの銃弾をはじいた。


「お前ら人の話を最後まで――」


 銃撃を防がれたマゼンタは、黒岩教諭を檻から救出した四乃舞ヴァーミリオンに向かい叫ぶ。

「そこのハットリ!」

「拙者のことでごさるか!?」

「さっきの術で、奴を下に引きずり落とせんのか!?」

「あれは下準備も手間でござるし、連発できるようなものではござらん」

「いえ、もう大丈夫でしょう」

 そう言う焔子スカーレットの視線の先には、変身を終えた烈堂の姿。


「一人や二人増えたところで――」

「ちぇええええすとぉ!!」

 猿叫一声、烈堂はひとっ飛びで空中の発明マンの目前へとジャンプする。


「かああああ!!」

「くっ、スーパーバリアー!」

 銃弾も通さないバリアーを一撃で打ち砕き、そのまま烈堂の右ストレートは怪人を壁まで吹き飛ばす。


「お前らは人の話もまともに聞けんのかあぁぁ!!」

 その言葉を最後に、発明マンは大爆発を起こして消えた。


「な、なぜ爆発する?」

 着地した烈堂は、まだ上空に残る煙を見上げ、呆然とつぶやく。


「話せば長くなりますが、怪人の体は『樹』から生み出されたエネルギーで成り立っています。ある程度ダメージを与えればそれが維持できなくなるのですわ。そして、強い怪人ほど多くのエネルギーを持つため、爆発も大きいのです」

「わかったような、わからんような」

「詳しくはおいおい説明する機会もあるでしょう。それより今は、黒岩教諭の方が問題ですわね」

 そう言うとスカーレットレッドは、変身を解き元の紅蓮小路ぐれんこうじ焔子ほむらこの姿に戻る。

「君は……一年代表の紅蓮小路さんか?」

 ようやく彼女のことを認識した黒岩教諭に、焔子は歩み寄る。


「ちょっと待ってくれ。そもそもこれ、何の罪に問われる?」

 その焔子の後ろ姿に、烈堂は問いかける。


「故郷の人々に対して恨みを抱き、それが怪人を生み出した。そして、怪人は二酸化炭素を発生させ、地球温暖化を促進、世界を海に沈めようとした。それが今回の事件の全貌ですわ」

「怪人製造罪ですカ?」

「いやそんな罪はえ!」

「……二酸化炭素製造罪」

「人類皆犯罪者じゃないかそれじゃ」

 わけのわからない罪状を口走り始めたマゼンタとつゆに、烈堂はつっこみを入れる。

 いつの間にか二人は元の女子高生の姿に、そして四乃舞もくノ一の姿に戻っていた。


「犯罪の準備なら予備罪あたりになるのかもしれんが、あんな怪人が絡んでくるのなら情状酌量の余地はないのか?」

「そもそも、怪人は警察の管轄外ですわ。下手に自首したところで、変人扱いが関の山ですわね」

 そこで焔子は黒岩に向け語りかける。


「ひとまず先生の身柄は学園理事会で預からせていただきます。後は関連省庁だか関連組織だかが何とかしてくださるでしょう」

「わかった」 

「さて、体験入部のお三方におかれましては、本日はお疲れ様でした。また、怪人退治へのご協力、誠にありがとうございます。なお、体験入部期間はもうしばらくございます。よろしければもう少々お付き合い下さい」


 そこに烈堂が、手を挙げて発言する。

「ええと……まだ、元に戻る方法を聞いていないんだが」


    ◆


「……と、言うわけでこれ」

 一旦部室に戻ってからの帰り際、烈堂はつゆから、一つの箱を渡される。


「と言うわけと言われても……何だこれは?」

「……戦隊物の元祖にして頂点、『機密戦隊ロクレンジャー』。DVD全十二巻」

「これを、どうしろと……?」

「……次の戦いまでに、ちゃんと予習をしておくこと」

「予習」

 紅路樹学園は、その裏の性質ゆえか校風も生徒たちの自主性を重んじるものとなっている。

 それゆえか、他の高校では持ち込み禁止な私物も、部活にかこつければ自由に持ち歩けたりもするのだ。


「いやこれ、いつも持ってるのか?」

「……もちろん」

 とはいえこのサイズは、カバンに入れて持ち歩くのも大変だったりする。


「……じゃ」

 つゆが部室を出てゆくと、入れ替わるようにマゼンタがそばに寄ってきた。

「じゃあレツドー、帰ってレツドーんで一緒に見まショー!!」

「お前なあ、一人暮らしの男のところに安易に行くとかいうなよ。もう昔とは違うんだぞ」

「エー、レツドーのイケズー! 僕人参ボクニンジンー! ラノベ主人公ー!」

「何だそれは。悪口のたぐいなのか?」

 そして二人も、後始末を焔子たちに任せ部室を後にする。


 校門へ向かう途中、まだあれこれ言っているマゼンタの言葉を受け流しつつ、ちらりと守護隊部の部室を見上げた烈堂は、面倒臭げに独りごちた。

「とはいえ……本当にあんな連中が出てくるとはな。ただの正義の味方ごっこでもないようだし、もう少しだけ様子を見ることにするか」


    ◆


 守護隊部の体験入部が続くなか、またしても烈堂の前に異変が立ちふさがる。

 時代を逆行させるような事態を引き起こすのははたして何者か。そして、その目的とは。

 激しい戦いのなか、マゼンタ・ソーマもまた、その真の姿をあらわにする。


 次回、学園守護隊レッドセイバーズ第二話、『古き良き時代』。


 ご期待ください。

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