発明マン、復讐を企てる

「あ、あれはまさか、黒岩くろいわ教諭!?」

 おりに閉じ込められた男の姿に、烈堂は驚きの声を上げる。

「確かに、化学担当の黒岩先生のようですわね」


「な、何だ貴様らは!?」

 突然の乱入者に、その場を仕切っていたと思しき怪人が声を上げる。


「我々は学園の平和を守る守護隊部! わたくしたちがいるかぎり、この学園で好き勝手な真似はさせませんわ」

「俺は発明マン。この男の願いにより生まれた」

 焔子スカーレットレッドに応えるかのように、怪人も名乗りを上げる。


「で、この無駄に大きな機械は、いったい何ですの?」

「ふん、見てわからんか?」

 大がかりな機械を背に、発明マンと名乗った怪人は胸を張る。


「これこそがこの発明マンの大発明、二酸化炭素にさんかたんそ発生装置はっせいそうちだ!」

「そんなもの、見ただけでわかるわけがありませんわ! って……え……? 二酸化……炭素?」

「レツドー、ナントカサンソって何ですカー」

「いや……マゼンタは授業をまともに聞いてなかったとして、俺の知ってる二酸化炭素とも違う気がする」


「二酸化炭素は、君たちも知っての通り、炭素を含む物質を燃焼させることによって生じる、酸素と炭素の化合物だ。そして……温室効果ガスの一種でもある」

 檻の中にいる黒岩教諭が、普段の授業のような口調で語る。


「俺の知ってる二酸化炭素だった」

「し、しかし、二酸化炭素など作って何をするつもりですの!?」

「これは、地球温暖化を加速させる機械なんだ」

 顔を伏せ、黒岩は絞り出すように言う。


 あっけにとられる烈堂たちを前に、発明マンは演説でもするかのように大きく両手を広げた。

「そう、この二酸化炭素発生装置が完成したあかつきには、早くともあと数十年はかかると言われたこの惑星の温暖化を、わずか三ヶ月で実現することが可能となるのだ!」

「俺にはまだ事態がよく理解できないのだが……ひとつ間違えれば大事おおごとじゃないか、これ」

「間違いなく大事ですわ!」


「そうして、我があるじとその家族を故郷から追い出したやつらをみな、島もろとも海に沈めてやるのだ‼」

「ようは私怨か!」

「天才と天災は紙一重というでござる」

「そんなことわざはねえよ」

「……まだバカのほうがマシなやつ」


 檻の中にくずおれたまま、黒岩は悲痛な声を上げる。

「今更こんなことを言ってもいいわけにもならないが、僕が安易に妙な連中に頼ったのが悪かった。故郷の人達とうまくいかなくて、見返してやりたいとは思ったが、世界が巻き添えになるなんて思ってもみなかった!」

「所詮は桜の木ですから。人の願いなど正しく理解などできませんわ。時として斜め上の叶え方をすることもざらです」


「君は、五組の赤羽烈堂か! それに……」

 烈堂とともにいる、変身したままの四人を見て、一瞬黒岩の動きが止まる。


「と、とにかく、ここは逃げてくれ! そして校長か先生方に報告するんだ! そうすれば――」

「ご心配なく」

 黒岩の言葉を遮るかのように、焔子は宣言する。


「わたくし達が怪人たちを倒し、貴方あなたを救います!」


「まあよい、われらの野望はもはや、何人たりとも阻止できんわ! ゆけ、雑兵マンたちよ!」

「「アイー!」」

 発明マンの命令に従い、黒子のような怪人たちは機械の製作作業を中断し、烈堂たちの方に向かってくる。


「マゼンタさんは私とともにあの雑兵たちの相手をお願いします!」

「らじゃー!」

四乃舞ヴァーミリオンは教諭の救出を!」

「承知!」

「そしてつゆクリムゾン貴女あなたは赤羽さんに変身の仕方を教えて下さい」

「……りょ」


「はははは、烈堂よ! 貴様きさまはゆっくりこの業界の作法でも教えてもらうがいい! この程度のやから、我ら二人ですぐさま殲滅せんめつできるぞ!」

「銃器手にしたとたんに日本語が流暢りゅうちょうになるのめて下さいません!?」

 マゼンタは腰のホルスターから二挺の拳銃を抜き出すと、発砲しながら駆け出した。銃弾を頭や胸に受けた怪人たちは、次々に黒いもやとなって消えてゆく。


紅の鞭クリムゾンビュート!」

 焔子スカーレットも、普段より長さの増した縦ロールの髪を二条の鞭として振るう。

 それに打ち据えられた雑兵マンたちは倒れ、地に付したまま消えた。


    ◆


「……それじゃあ今のうちに……まず腕輪を外し、右手に持ちかえる」

「こ、こうか?」

「……そのまま、腕輪の内側にあるトリガーを押します」

「えっ押すの? 引き鉄トリガーを?」

「……押・し・ま・す」

「あっはい」

「……トリガーを押しながら、右腕を突き上げ、その名、そしてチェンジと叫ぶ」

「わかった」

 そして言われた通り、烈堂は腕輪を持った右手を突き上げ、を叫ぶ。


引き鉄トリガアアアアァァァァ!!」

「……違うそうじゃねえ!!」

変身チェンジ!!」

「……何に変身する気!?」

「変身しないぞ」

「……したら困るわ!」


    ◆


「忍法、敵在適所てきざいてきしょの術!」

 化学教師の黒岩を人質に取ろうとしてた発明マンに向かい、ヴァーミリオンレッドは忍術を発動する。

 二人の姿がぶれ、発明マンのいた場所にヴァーミリオンが、そして彼女のいた場所に発明マンが、入れ替わりに出現する。


「な、何っ!?」

 突然の出来事に戸惑いの声を上げる発明マンだったが、とっさに脱出を図ろうとする。


「スプリングブーツ!」

 ブーツの足の裏から出現したバネが、発明マンを数メートル上空へと打ち上げた。


紅の縛鎖クリムゾンチェーン!」

 そこに向け、スカーレットの髪が伸びる。それは、発明マンの左手と右足に絡みついた。


 それでも発明マンは慌てるそぶりも見せず、捕らえられていない右手のひらを、焔子の髪に押し付ける。

「スタンガンハンド!」

「っ!?」


「ジェットランドセル!」

 その髪が緩んだ瞬間、発明マンの背のランドセルが火を噴いた。

 そのまま怪人の体は、上空へと舞い上がる。


    ◆


“Red Change!!”

 烈堂の持つ腕輪から、謎の音声が発せられた。

 それに従い、烈堂は叫ぶ。

赤色変身レッドチェンジ!」


 直後、赤い光がぜた。


「ぬぇっ!?」

 間近でそれを見たつゆクリムゾンが、悲鳴を上げる。


 再び目を開いた彼女が見たのは、赤いスーツをまとった烈堂の姿。

 頭部は仲間たちと同じような、覆面とゴーグルを合わせたような姿に。さらにその額を『赤』の一文字が飾っていた。


“Red - Red, Ready, Fight!!”

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