朱藤四乃舞、結界を張る

「何だ、意外と弱……」

 肘打ちを食らい地面にうずくまる門番マンを見下ろし、赤羽あかは烈堂れつどうはぼそりと呟いた。

 その直後、異変を感じ取った烈堂は、怪人のそばから飛びすさる。


 そして怪人の体は、小さな爆発をおこして消えた。


「これは……自害したのか?」

「そんなわけがありませんわ!」

 誰に話しかけたわけではなく発せられた烈堂の言葉に、変身したままの焔子スカーレットレッドが答える。


「彼ら怪人の体は、かの『樹』から生み出されたちからで構成されています。そこにある程度の衝撃を与えれば、今のように崩壊するのです」


 スカーレットレッドに向き直った烈堂は、なにやら納得がいかぬといった表情で問いかける。

「しかしこれは、本当に必要なことなのか?」

「もちろん、彼らを野放しにするわけにはいけませんわ。とはいえ普通は、生身で怪人と戦えたりはしないものですがね」

「そうじゃない。あんたたちの言う正義というものは、この何とかマンにならなければ守れないものなのか、と言っているんだ」


「最初に説明をする予定でござったが、急ぎの案件が発生したのでござる」

 その問いに答えたのは四乃舞ヴァーミリオンレッド


「それで、変身の理由でござるが、拙者たちが新たな力を得たのは、赤羽殿ならわかるでござろう」

「それは……確かに」

「もう一件、素顔で戦って、目撃者にあることないこと噂されても気に留めぬ、と申されるなら拙者たちはそれでもかまわぬでござる」

「ぬ……」

「それより、本人も言っていたとおり、先ほどの怪人はただの門番ですわ。本命はこの先に」

「このまま乗り込むのか?」

「いえ、しばしお待ちを。今一度、下準備を……四乃舞しのぶ

「御意」

「さあ、皆さんはもう少し壁の方に寄ってくださいませ」


 距離を取った四人の前で、四乃舞ヴァーミリオンレッドは扉に向かって両手で印を結ぶ。

「忍法、新我維新しんがいしんの術!」

 くノ一の姿がかすんだかと思えば、彼女はまったく同じ姿の六人に分身していた。

 そのまま六人は、一つの円を描くかのような位置に移動する。


「……身外身しんがいしんって、孫悟空の分身の術なんじゃ……」

「あれ忍術じゃなくて仙術じゃなかったか?」

「オッス、オラ孫悟空でース!」

「マゼンタ、今大事なところだから静かにしてろ」

「モー! レツドーのチョーセンニンジン! チンゲンサイ! パーコーメーン!!」

「今俺怒られてんの? 馬鹿にされてんの?」

「……悪口の語彙力ゼロ」

「それはある意味いいことなのではありませんの?」

「そのクビ飛んでケー!!」

「いや急に怖いわ!」


 騒いでいる四人のことは気にも留めず、六人のヴァーミリオンレッド達は続けて先程とは異なる印を、それぞれにその両手で結ぶ。

「忍法、百火燎爛ひゃっかりょうらんの術!」

 彼女たちから吹き上がる炎が床を走り、六人を結ぶ図形がえがき出された。


 そこに生まれた炎の形は――。

「……これは……六角形!」

 それまで静かだったつゆクリムゾンレッドが、急に解説者のようにしゃべり出す。


「なあ、こういうのって、普通は六芒せ……」

「……それ、海外だと色々問題になるから」

「海外進出する気か!?」

「我々が海外に行かなくても、今はすぐに動画が拡散される時代ですから」


 そして、炎の六角形が完成した瞬間、そこからわき出した何かが、烈堂たちの体を通り抜ける、そんな感覚があった。


「まさか結界術まで使いこなすとはな」

「……これが、結界」

「何か、魔法みたいですネー」

「奥義を極めた忍術は、魔法と区別がつかぬでござる」

 術を完成させたヴァーミリオンレッドも、会話に加わってくる。


「……昔のゲームの設定」

「容量不足で差別化の出来ていないものなどと一緒にされたくないでござるよ」

「昔のゲームに詳しいな」

「もっとも、拙者だけの力ではこれほど大掛かりな術は使い切れぬでござるよ。これもこの変身によって受ける力あってこそ」

「それで、この結界の効果は何だ? 自分たちが強くなったようには思えんが」

「結界の中の空間を、元の世界からほんの少しだけずらすでござる」

「……それは、すご、い?」


「一つ目の効果……結界の中で暴れて物を壊しても、元の世界には反映されぬでござる」

「ただし効果は無機物だけで、倒した怪人はよみがえることはありませんし、わたくし達のケガも治りませんわ」

「もう一つ、結界の外から撮影されても、変身した拙者たちや怪人は写らんでござる。今の赤羽殿は生身ゆえ写るでござるがな」

 その言葉に烈堂は、なにやら考え込むような表情になった。


「さて、準備は万端ですわね」

 そして再び、スカーレットレッドがその場を仕切る。


「いよいよ、敵の本拠地に乗り込みますわ」

 他の四人も、その言葉に静かにうなずいた。


 そして、扉の向こうで彼らが見たものは……。


「な、っ……!」

 烈堂の口から、驚きの言葉がこぼれる。


 眼下に広がるのは、船のドックのような広大な地下室。

 そこでは、黒子のような姿をした数十人の怪人たちが、一戸建ての家ほどもある巨大な機械を組み立てていた。

 それを指揮するのは、歯車や謎の筒を身につけた一人の怪人。


 そしてそのかたわらには、鳥かごのようなおりに閉じ込められた、一人の男の姿があった。

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