第10話 星の神様と太陽の神様(2)
その夜も美しい月を見ながら、王女様は考えていました。どんなオシャレな服を着るよりも、神官衣の正装が良いような気がしたからです。来年の春からとはいえ神官になる訳ですし、神様にお目にかかるにふさわしいと考えたからです。
「こんばんは」
涼やかな声が聞こえました。穏やかな月の神様が王女様に逢いに来たのです。いつもと同じ時間に。几帳面なところも素敵だと王女様は感じました。
「こんばんは、月の神様。今日もお会いできて嬉しいです」
そう言って彼女は微笑みました。そして、月の神様に、先程考えたことを伝えてみました。月の神様は少し考えたあとで言いました。
「色々と考えてくれて、ありがとうございます。確かにその通りだと思います。清楚なあなたには神官衣は似合うと思いますし、魅力的に見えると思います。あなたの真意が伝わると思いますよ」
王女様はにっこり笑いました。安心したのと嬉しいので、そっと月の神様に抱きつきました。
「あなたにそう言って貰えて嬉しいです」
王女様はすごく嬉しそうにしているので、月の神様は、恋人として抱きしめたい想いと頭を撫でたい思い、そして素直な人間でよかったという神様の視点という2つの思いを同時に持ちました。これからもそのような思いは沢山出てくるでしょう。
神様と人間であるからこそ、恋人にしてあげられないことも多いかもしれません。また彼女を羨むものもいずれ出るでしょう。その時は必ず守り通すという決意をし、全ての事は神である自分が背負うと、月の神様はしっかりと心の中でつぶやきました。
「今日はゆっくりお茶でも飲みませんか?」
王女様は広く作られたバルコニーに月の神様を誘いました。王女様がよくくつろぐ場所でもある白いテーブルには二人分の茶器が用意されていました。よくみると美味しそうなお菓子も。この地方の名産物である、白くてほのかに甘いお菓子でした。月の神様によく捧げられているものです。あとはハーブティーや焼き菓子などがいくつかありました。王女様がハーブティーを淹れ始めました。ふわっと茶葉の良い香りがします。
「いいですね。でももし誰かが入ってきたら……その方が驚いたりしませんか?」
「大丈夫ですわ、人払いをしてあります」
そう言って王女様はくすりと微笑しました。そして今日の菓子は全て自分が作ったものだと恥ずかしそうに言いました。
「愛しいあなたが私のために、お菓子を作って下さったというのだけで、とても幸せで私は嬉しく思いますよ」
月の神様はそう言いました。恋人が心を込めて作ってくれたお菓子は、おそらく何度も練習して作ってくれたのだろうと思われたのです。また、少し酸味がある香りの良いハーブティーを一口飲んで、月の神様は微笑みました。
「いい茶葉ですね」
「はい。私のお気に入りのものなのですわ」
お気に入りの茶葉は肌によいとか、美しくなれるという言い伝えがあり、王女様はよく飲んでいました。月の神様はその事を思い出して微笑しました。女性はどんなに美しくても、更に美しくなる努力を忘れないものだという、美の女神の言葉を思い出したからです。
月の神様と王女様 成宮 澪 @tentiuzyou
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