第28話 「老人性愛(ジェロントフィリア)」


扉の向こうからシャワーの音が聞こえたので一応ノックしてからドアを開けるとシャワー室にいるようなので声をかける。


『タオルと服置いとくよ。下着なんだけど…』


そこまで言うと少しドアが開いてチラッと顔を覗かせた。


「異能で綺麗にできるから大丈夫」

『りょーかい』


台の上に着替えを置いてリビングへ戻る。

ドアの隙間から見えた左腕には上腕から手首にかけて傷があった。


「もうすぐできるけど今日の予定は決まってるか?」

『まず上の二人が一番最初かな、放置して悪臭出されても困るし』

「生き物を飼うって難しいよねぇ」


もはや人間扱いをしない様子を見るに、よっぽど嫌いなんだなと考えてたらドアの音がした。

こっちに来ると思って待ったが数秒待っても来ない。聞き間違いだったかな?

ソファーから立ち廊下へ出ると


『……そんなところで突っ立てないでこっちおいで』


ポツンと廊下に佇んでた。

ちょいちょいと手招くと小走りで寄ってきたので、そのままソファーまで誘導してやる。


『シャワー浴びてくるからここ座ってて』


さっさと行って帰ってこようと洗面所まで行き、前回の失敗から学び事前に入れておいた着替えを棚から出してシャワーを浴びる。



10分にも満たない時間でシャワーを済ませて着替えてると、雷夢の気配がしたような気がする。

チラッと周りを見渡すと、ドアの影からにゅっと雷夢が上半身を出してきた。


[警察だ][二人][けいさつだ]


同時に風の声も響く。


『警察来たみたいだね』

「うん、隠すものある?」


そう聞かれたが、すぐには思いつかない。


『つど指示出す形でも問題ない?』

「大丈夫、じゃぁ近くにいるから何かあったら言って」


そう言い雷夢はまた影の中へ身を潜めた。

チャイムが鳴り樹が対応しに行ったようなので適当に髪を拭きながら様子をうかがってるとノックが。


「着替え終わってるか?」

『なんだって?』


返事をしながら扉を開け警察が話をした内容を聞く。


「父親のことだと」

『めんどくさいなぁ』


少しイラつきながらマスクをつけて玄関に向かいドアを開けて外へ。


「こんにちは。お父様はご在宅ですか?」

『いえ、帰ってきてません』

「中を拝見しても?」


返事をするものめんどくさく、家の中に戻っていくと廊下で樹が代わりに同意をして中へ招く。

そのまま四人でリビングに行く。いつの間にか鈴蘭の姿が消えてるが気にしない。

中をぐるりと警官がみて回った時


『………ッチ』


二階からかすかに鈍い音が聞き取れた。

位置からして父親を収納してる部屋あたりだ。

二階も見て回る流れでのタイミングで聞き取った音は警官にも聞き取れただろう。


「この家には他に誰かいますか」

『誰もいませんが』


あからさまに怪しんだ様子でこちらを観察しながら聞いてきた。

階段前で待つように言うと一人は残り、もう一人は二階へ行く。

トントンと足音が遠ざかっていきすぐに何も聞こえなくなった。

チラリと樹に視線を向けるとちょうど向こうもこちらに目を向けてきていて、お互いが目線で会話。


“どうなってると思う?”

“雷夢が何かしたに決まってんだろ”


樹はこの後に何が起こるのか想像したのか小さく身震いしている。

数分経過したが二階からの反応が何もない。


「あなた達はここで動かないで、応援を呼んでからそうsっ!!?」


無線機に手を伸ばした警官の顔面をどこからともなく出てきた雷夢が鷲掴み床に引き倒す。


「誰kっ…」

「黙らないとこの場で殺す」


叫ぼうとする女性警官の口にナイフを突っ込み強制的に黙らせた。


「もう一人は?」

「上で転がってる」

『あー…樹の異能でごまかすか、別手段とも思ったけど…』


死んでるだろうから樹は上の奴へ関与ができない。

どうごまかすか考えを巡らせてると、上から足音が聞こえた。


「警官生きてんのか?」

「死んでるけど動くよ」


異能で操ってるのかと思ったがそうではないらしい。

静かに降りてきた警官は、一見何ともないように見えるが呼吸もなく瞬きすらしない。


「あれ…思ってたんとちがぁう……」


足元で警官を押さえてる雷夢が心底残念そうに呟く。


『これ、どういう仕組み?』

むしの卵を埋めたの」


その一言で全員が思わず言葉を飲み込む。


『…とりあえず、この人をどうするかだけど』


警官を殺すのは簡単だが、その後の後始末がめんどくさい。

樹の異能は暗示をかける人間の人数が多いと効果が薄れてしまうので多用はできない。

それぞれが黙ってると雷夢が突然自分の影に手をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小鳥遊紅という人間 イヴ @takanashi916

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ