第27話 「秋月雷夢」


グイっと何かに引っ張られたような感覚だと思い瞬きをした次の瞬間、目の前の景色が全く違うものになっている。

来たことのない場所だが雷夢は何回か来たことがあるようで、周りを見て私たちの様子を窺ってからあと数回飛ぶというので全員もう一度掴まりなおす。

2回ほど移動すると目的地の駅の裏路地に出た。


手が離れたのでもう動いてもいいと判断して樹達と話していく。

凄いとしか言わなくなった鈴蘭に、この異能での移動可能距離がどうのと一人でぶつぶつ言う樹。


『落ち着きなよ』


何を話すとしても一息ついて落ち着かないと何も始まらんだろと会話してると


「体調は問題なさそうだし、ここならすぐ車にも行けるね」

『そうだね、ありがと。…雷夢?』


声をかけられたので振り向きお礼を言い顔を見ると気分が悪そうでぼーっとしている。


4人での移動だし疲れたんだろうと思ったが、こちらの声は聞こえてなさそうで、しかもまた異能を使おうとしてるっぽい。


今もう一度異能を使うのは無理でしょっっ


『雷夢っっ!』

「っっっ!?!?」


咄嗟に右腕を掴むと驚いた拍子に力が霧散すべっと

「え」

『雷夢、顔が真っ白だよ』


私の声に驚いた二人もこちらへ寄ってきて、雷夢はなぜ止められたのか理解ができていないようで虚ろな表情でこちらを見ていたが


「あれ…白い…」


うわ言の様に呟いたと思ったらぐらっと体が傾き倒れこんできたので支えてやる。

少し体が熱い気がする。


『鈴蘭』

「はいはーい。うーん、少し熱っぽいね。怪我もしたし疲れが出たんだと思うよ」

「車に乗せて紅の家に戻るか」


樹の言うことに全員賛成して、雷夢を背負い全員で車に行き帰ることに。



時間も時間なので日中に比べて随分と早い時間で家に着くことができた。


「秋月を運ぼうか?」

『いい、自分で連れてく』


クテッと動かない雷夢を抱えなおして車から降り家の中に入っていく。


「ちょっといつもと違くない?」

「独占って感じだな」


家に入って真っすぐ自室に連れていきベッドに寝かせてやる。

ピクリとも動かないのは少し心配でもあるが、車内で鈴蘭が簡単に診察してエネルギー切れだと言われてるので見守ることしかできない。

一度部屋から出てリビングで3人で集まる。


『上の二人は雷夢が起きてから様子を見に行けばいいと思うんだけどいい?』


紹介と説明をするのにちょうどいいだろうと考えてそう言えば二人とも一つ返事で賛成。

外ももう少しでうっすらと明るくなり始める時間帯になるので、3人はそれぞれソファーに横になり少し仮眠を取ることにした。


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~~....て、や…   め....


何かが聞こえた。

誰かのうめき声のような…


『....うめき声!?』


別室で休ませてる雷夢の存在を思い出して飛び起きる。

そのままの勢いで自分の部屋へ駆け込むとベッドに寝かせてる雷夢がうなされてた。


「どうした!?」

「なになに!?!?」


突然飛び起きて走った私に驚いて追いかけてきた二人がどうしたのかと声をかけてくるが相手をする余裕はない。


「やあ....。そこ...に....」


夢で魘されてるのか、やめて。そこにいる。嘘じゃないなど呟いてる。

起こした方がいいかと思い声をかけようとすると


「~~~っっっ!!!!」


声にならない悲鳴を上げながら飛び起きた。

細かく震えながら目を白黒させてあたりを警戒し、部屋の中をぐるりと見渡してからこちらを見た。


『少し落ち着いた?』


そう声をかけてやれば大丈夫なようで、私らを運んだあと気を失ったから自宅に運んで寝かせたことを説明してやり有無を言わさずシャワーを浴びてスッキリして来いと告げて洗面所へ放り込んだ。

リビングに戻り鈴蘭が空腹を訴えだし、樹があるもので作るというので任せることに。


「ライちゃんはクセの塊っぽいね」

『この中にクセがない奴はいないでしょ』

「右側は特に問題ないけど、左側の特に上半身への警戒が強いから何かあるね」

『たとえば?』

「常に周りへの警戒はあるけど、左腕に対して私や樹君になかなか強めの警戒。人見知りはあるけど、どちらかといえば見られたくないって感じだから自傷ありかなぁ」

『頭には入れとくよ』


ソファーにはくつろぐ鈴蘭、キッチンでは樹が朝食を作ってる。

そーいえば着替えを渡してなかったな。

下着はどうしようかと考えて、雷夢が気にしないなら貸せばいいかと結論を出して自分の部屋に行きジーンズにインナーとパーカーを持ち洗面所へ。



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