信じたけれど、救われなかった人の話
「僕は、ただ、彼女を守りたかっただけなんだ」
「彼女を――いや、彼女だけを守って、いったいどうするつもりだったんだ、貴様は?」
「彼女は、この世界を救ってくれる人だから」
「ふうん? よもや貴様、これまで重ねた罪のすべてを救世のために必要な行為だった、とでも思っているのではないだろうな?」
「罪って……、僕はこの世界を救うという彼女を手伝ってきただけだよ。そんな僕の行動の、何を罪だと貴方はいうの?」
「なんだ。貴様には自覚がないのか?」
そう言って、面会人は虫を見るような視線を相手に向け、
「賛同しない者たちのことごとくを灰に変え、信奉者たちすら、強力すぎる武器を与えて無駄に屍の山へと変えた貴様らが、正しい行いをしていた、と?」
「それは……っ、彼女を受け入れない君たちが悪いんだよ!」
「あいにくと、思考止めてただ隷属することを選べるほど、俺は馬鹿ではないのでな」
「賢人を自称するというのなら、彼女がうたう理想のすばらしさがわかるはずでしょう!?」
「わからんな。というか、他人の意志や生命を脅かさなければ実現できない理想のどこに《素晴らしさ》とやらがある? 貴様やあの女の頭の中にどれだけ崇高な世界が広がっているのかは知らんが、自分が抱いた理想への道を屍で舗装しようとした女を受け入れる国などあるものか」
「そんな……。じゃあ、彼女は世界を救ってはくれないの?」
「無理だな。大義もなく国を焼いた存在を《聖女》と崇める馬鹿は貴様くらいだ」
小物置き場 影夏 @eika-yaga
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