ある日妹と買い物に出掛けたら、次の日にクラスの女子二人に彼女いるんでしょ、と涙目で迫られたのだが。あれ、もしかして妹のことを彼女だって勘違いしてる?

栗色

1話目

「お兄ちゃん!買い物行くよ!四十秒で支度しな!」


ジ◯リに出てくる海賊の真似をしながらいきなり俺の部屋を勢いよく開けた妹の亜美。


「……え?なんで?」


「だってお兄ちゃん外行き用の服ないでしょ?髪も伸びてボサボサだし、整えればカッコ良くなれるよ!だからほら、早く支度する!」


……なるほど。つまり普段からあまり外に出ない俺のことを心配してくれているのか。

妹の亜美は気配りができてとても優しい。それでいて美人だ。実際、クラスだけではなく学校全体で噂になって、お姫様、なんて言われてる始末だ。ほぼ毎日告白されているらしい。


「はぁ、あのな、亜美。お兄ちゃんは学校で人と過ごしてたせいで疲れてるの。今日と明日くらいゆっくりさせてもらえないかな?あ、ちょっと待って、ごめんって。わかったから、出掛けに行くから、頼むからそのバット下ろしてくださいお願いします!?」


「最初からそういえばいいんだよお兄ちゃん。と言うかなんでそんなに外に出るのが嫌なの?コミュ障なの?」


「イエス!アイ、アーム!」


「…………」


あれ、おかしいな、亜美の後ろに仁王像が見える。

亜美はバットではないけど拳を振り上げて――


「ぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」


……何があったかは、ご想像にお任せする、ZE☆




――――


そんなこんなでやってきました、ショッピングモール!

……人が多くて辟易しちゃうぜお兄ちゃんは。


「今日は私がお兄ちゃんをコーディネートしてあげよう!

まずは服を買いに行くよ!」


亜美はなぜかは知らないがとても機嫌がいい。


鼻歌を歌いながら俺の知らないオシャレなブランド店に入っていく。


うーん、これはお兄ちゃんには合わないかな。これは〜…と何やらブツブツと俺に似合う服装を探してきてくれているようだ。

だがお兄ちゃんとして、妹にばかり頼って入られない!


「亜美〜お兄ちゃんも何か探して「お兄ちゃんは何もしなくていいから!」そ、そうですか」


食い気味に断られた。ぐすん。


「お兄ちゃん、前に自分で服買ってきた時のこと覚えてる?

足の生えたマグロが挨拶してるクソダサTシャツ買ってきたよね。お兄ちゃんは絶望的にセンスがないんだから黙ってなさい!」


クソダサTシャツて、いいじゃん、あれ。足の生えたマグロかっこいいじゃん。


俺は一人黄昏ていると、数分後、亜美が俺を呼んだ。


「これ、試着室で着てきて」


亜美から渡された衣服を持って、試着室に入る。


「お兄ちゃんー、サイズはどう?大丈夫そう?」


「ああ、大丈夫。ブカブカでもキツくもないしちょうどピッタリだ!」


俺は亜美が選んだ衣服を着て試着室のドアを開ける。


「どう?似合ってる?」


「……うん。やっぱりいいね。はい、じゃあ次はこれ着てきてね!」


……どうやら何着も着るみたいだ。


俺は着せ替え人形のように何着も着せられ、その中から亜美がいいと思った数着を買っていった。値段は聞かないで欲しい。


「よし!じゃあ次は美容院に行って髪を整えれば完成だね!」


俺たちはショッピングモールを出て、その近くにある、亜美の行きつけの美容院に行った。


「こんにちは!今日は私のお兄ちゃんをカッコよくしてください」


「はぁい、わかったわぁ!亜美ちゃん。」


少し気になるのは今亜美と話している筋肉モリモリのオネエだ。個性がとても強い。

亜美とオネエの美容師さんが少し話しているのをみていると、オネエさんがこちらに向いて―


「貴方が亜美ちゃんのお兄さんね!任せなさぁい!私が貴方をカッコいいオトコにし、て、あ、げ、る!」


「ひゃ、ひゃい…」


本当に大丈夫だろうか…色んな意味で。


そしてオネエさんによるカットが始まった。 


――――

結果として言うと…めちゃくちゃ上手でした。


俺は美容院で髪型を変えるのは初めてだったから、ほとんどオネエさんが決めてくれたのだが、センスがいい。素人目から見てもかなりの腕の持ち主だった。


「あらやだ、想像してた何倍も男前じゃなぁい!さすが、亜美ちゃんのお兄さんってところかしらね」


「はは、ありがとうございます。…あれ、ところで亜美はどこに行ったのでしょうか?」


周りを見渡して見ても亜美はどこにもいない。


「亜美ちゃんなら、少し前に飲み物を買いに行ってくるって言ってたわよ?…でも流石に飲み物を買いに行っただけにしては長いわねぇ」


「ッ!店長さん。お代、ここに置いておきますね!?」


亜美は誰もが目を惹く容姿をしているから、そのせいでトラブルに巻き込まれることがよくある。俺と一緒の時でも六割くらいはよくナンパされる。


俺は亜美が心配になって、美容院を飛び出した。

そして、美容院の近くにある、自動販売機で複数の男に絡まれている亜美を発見した。


「いいじゃ〜ん。俺らと遊ぼうって。絶対楽しいよ!」


「そうですか。お帰りはあちらですよ」


亜美は側からみてもかなりの塩対応だ。俺だったら自信無くす。


「そう言わずにさぁ。ほら、こっちにおいでよ!」


ナンパ男は亜美の腕をがっちりと掴んで引き寄せ―


「なに、してるんですか?ウチの子に」


俺は寸前でナンパ男の腕を掴んだ。

そしてそのままナンパ男の腕を捻って亜美から手を離させた。


「グッ!?おい、お前!何する…ん、だ」


ナンパ男は俺の顔を見上げながら怒りの声を上げるが、だんだんと語気が弱まってきた。


…そんなに俺の顔は特徴的なのか?


「……チッ、これはどう足掻いても無理だわ。帰ろうぜ」


ナンパ男たちはそそくさと去っていった。


……これは、助かった…のか?


「亜美!大丈夫だったか?」


俺は一息ついた後、亜美を心配した。

忘れていたわけじゃない。決して。


すると、亜美は顔を赤くして―


「う、うん。大丈夫だよ?お兄ちゃん」


「何で顔を赤くしてんだ?熱でもあるのか?」


未だにボーッとしている亜美の肩を少し揺らしながら聞く。


「だ、大丈夫だって!ほら、髪型をキチンと整えたから少しだけ誰かわからなかっただけだもん!」


早口で捲し立てられれば俺も何も言い返す隙がない。


「そ、そうか?ならいいんだが…まぁ取り敢えず無事でよかったよ。……これで用事は終わりだよな?よし、帰るぞ〜」


そうして俺たちは愛しの我が家へと帰っていった。





――――

次の日


「お兄ちゃん、一緒に学校行こー!」


……憂鬱だ。

いつも通り、学校に行こうとしたのだが…ワックスをつけないままでいたら、亜美にせっかくだし付けていこうよ、と言われて亜美に手伝ってもらったため、俺と亜美の登校時間が同じくらいになってしまった。


ちなみに、普段は俺と亜美の登校時間が違うのは亜美と一緒に登校すると、周囲の生徒から妬みなどの嫉妬の感情をむき出しにして見られることが簡単に想像つくからだ。


「しかし、いつぶりだろうな。亜美と一緒に学校に行くのは」


「だってお兄ちゃんが避けるから…私は一緒に登校したかったのに」 


すこし俯きながら答える亜美。

最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、多分心配してくれているのだろう。


そんなことを話していたうちに俺たちは学校に到着した。


「じゃあ、困ったことがあれば俺を呼べよー」


「うん、またね!お兄ちゃん」


亜美と別れた俺は自分のクラスの教室がある場所まで行き、教室に入っていく。


俺は前の席の友達におはよう、と挨拶をした。


「お、おう。お前、悠二…だよな?」


「?それ以外の誰に見えるんだ?」


悲報、俺の顔、友人に忘れられた件について。


「いや、何があったんだよ。お前前まではファッション?なにそれ(笑)みたいな感じだったのによ。髪型セットした時と前までのお前だと印象が全然違うからびっくりしたぜ」


まるで月とスッポンだ、と友達は付け足した。

なにか違う気はするけども。まぁ悪い意味で言われてるならともかくいい意味で言われてることはわかるから気持ちがいいけど。


そんなことを話していると、後ろから声がかかった。


「悠二君っ!?どうしたのその髪型、ま、まさか彼女ができたの!?」


声をかけてきたテンションの落差がすごい大きい子は、同じクラスメイトの大村さん。

天真爛漫を絵に描いたような人でクラスのムードメーカー的存在だ。


「ははは、俺に彼女ができるわけないだろ?冗談はよしこちゃんってね!」


自分で言ってて悲しくなってきた。

一応言っておくが俺は人並みには彼女が欲しい、そう思っている。俺の灰色の人生に彩りを与えてくれると思うからだ。


告白だってしたことがある。結果は見事玉砕したけども。


「は、ほんとに?嘘じゃない?」


「嘘じゃない嘘じゃない。もし彼女がいたら裸で土下座できるくらいには嘘じゃない」


「いや、どんな形であれ、裸で土下座されるとされた側の方が困ると思うんだけど……彼女、いないんだぁ…よかった」


後ろの方は声が小さくて聞き取れなかったが疑いは晴れたようだ。めでたしめでたし。


「う、嘘よ!だってここに、証拠があるんだから!」


俺たちの会話を聞いていたのか、同じくクラスメイトの佐野さんがこちらはやってきた。


佐野さんは大村さんと同じく、クラスの中心人物で髪をポニーテールでまとめた美少女だ。


陸上部で、大会で優勝するなどかなりの実力を持っている。

そして気が強い。言いたいことはハッキリ言うタイプだ。


佐野さんは、ドン!と机にその証拠となるスマホを置いた。どう言うことだと思いながら恐る恐るその中身を覗いてみると――


「悠二!どう言うことよ!私と言うものがありながら…か、彼女を作るなんて!?」


いや、亜美じゃん。妹じゃん。

え?この人達は亜美のことを彼女だと思ってるってこと?


「ちょ、ちょっと待って!ここに映ってる子は妹の亜美だよ!彼女じゃない!」


「え、でも!だってこの距離感、妹でもこんな距離感は近すぎだと思うよ!」


と大村さんが言った。と言うか何でこんなに二人は必死なのだろうか。涙目だし。


「二人ともドードー、落ち着け。いいか?この子は、妹の亜美だ。ひとつ下の学年にいるだろ?たぶん有名だし」


二人は少しの間考えるような動作をして―


「「あ」」


おい、絶対に今気づいたよな。


そして二人して恐る恐る口を開く


「「まさか…近親相姦!?」」


「何でやねん!何でそうなったんだよ!」


なんだろう、この二人。前までは、うわぁすっげえ、とか、コミュ力たっけぇ、とかある意味で羨望の眼差しを送ってたのに。


すごく残念な頭の弱い子を見ている気分になる。


「いや、本当にただの妹なんだって!何でそんなに頑なに信じようとしないんだよ!」


「だ、だって。悠二君髪をキチンと整えたらイケメンだし…彼女の一人や二人はいるかもしれないじゃん!」


それに、と佐野さんがつづける


「悠二君の妹さん…めっっっちゃくちゃ可愛いし、妹とはいえあんな距離感で健全な関係って言われても信じられないよ」


「えぇ…どうしろってんだよ…とにかく、俺は生まれてからずっとフリーなの!わかって」


二人を納得させるようなものは何も思いつかないので俺は会話を強引に終わらせた。


二人は不承不承ながら自分の席に戻って行った。

……何だったんだ、あれは。


そして朝のホームルーム、午前の授業が終わり、昼休憩の時間になった。


「お兄ちゃん、一緒にご飯食べよー!」


悪魔は突然にやってきた。

タイミングが悪すぎる。なぜなら現在進行形で俺は大村さんと佐野さんの両人に亜美との関係を疑われているからだ。


ほら、二人ともこっちを射殺さんとばかりに凝視してる。


大村さんと佐野さんは席を立ってこちらへと歩いていく。


「悠二、君?やっぱり…付き合ってるんじゃないの?」


やばい、二人ともダークサイドに堕ちそうな雰囲気を醸し出している。

また涙目になってきているし。


「まさか、お兄ちゃんのお友達ですか?お兄ちゃんにも女友達が…よろしくお願いしますね、先輩!」


この状況をわかっているのかいないのか、亜美は二人に握手しに行った。


それで少し落ち着いたのか、二人は口を開く。

「ええと、亜美さん…でいいのよね、悠二君とは…どんな関係なの?」


「え?お兄ちゃんとの関係ですか?普通に仲のいい兄妹って感じだと思いますけど」


「「そ、そうなの?よかった〜」」


二人とも最大限の安堵の息を漏らした。

亜美が来た時はどうなるかわからなかったが全て丸く収まったから良しとしよう。


「…まぁ義兄妹ってのがつきますけどね」


結論、やっぱりこいつは悪魔的存在だ。


亜美がその言葉を発した途端に俺は本能的に教室から飛び出した。


「まて!悠二君!」


後ろでそんな言葉を聞きながら、俺は二人を撒くために校内を走り回った。


この疑いが晴れるのはいつになるのやら、そんなことを考えては憂鬱になりそうだった。

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