後編
翌日。
午前中、パパさんが仕事にでかけてしまった。言葉のほぼ通じない、ママさんと子ども達と私の4人で別行動になったのだ。
ママさんはその日、親戚の人達と「兵役の無事を祈る会」みたいな予定があった。兵役に行く若者(トルコには徴兵制がある)の無事を祈るために、女性だけが集まってコーランを読む風習らしい。
そして、私もそれに連れて行ってもらった。突然のホームステイならではの展開である。
スカーフを被った女性達が10名弱くらい集まってコーランを読んでいる間、私は子ども達と一緒に遊んだり、パンを食べたりしていた。コーランが終わると、皆で甘いトルコ紅茶を飲んだ。
日本人の法事とかに突然外国人が参加したような状況で、その場の誰にもあまり英語が通じなかった。にも関わらず、皆とてもよくしてくれた。
どうせ通じないので、お互いに苦手な英語は喋らず、私は日本語で、向こうはトルコ語で喋りながら、身振り手振りでコミュニケーションした。
最初は少し不安だったけど、よくわからないことも、「よくわかんないけどオッケー!」と言っていれば、たいてい問題なかった。言葉が通じなくてもけっこうコミュニケーションができるんだなぁと思えて、とても楽しかった。
しかし、その日の午後。
英語の話せるパパさんと過ごしたときには、半端に言葉が通じるせいで思いっきりすれ違ってしまったのである。
午後は、パパさんが仕事から早めに上がって、私をどこかに連れて行ってくれることになった。
パパさんが言うには、
「パムッカレの湧き水はすごく美容にいいから、ぜひ泳ぐといいよ。いいところに連れて行ってあげるから」
ということだった。
「でも、私水着持ってないよ」
「『ファミリープール』だから、水着がなくても大丈夫だよ」
それから、パパさんは『ファミリープール』についてもっと詳しく説明してくれていたと思う。
ただ、私の英語レベルはそれほど高くなかったので、細かい説明がよく理解できなかった。
でもまあ、『ファミリープール』というからには、小さな子どもやその家族がわいわい楽しめるような、ファミリー向けの浅いプールなんだろう。それなら確かに、水着がなくても足だけ水に浸して遊べそう。
私が(よくわかんないけど)オッケー! と言ったので、パパさんはけっこう遠いところまで車で連れて行ってくれた。
ところが――
着いたのは、簡素な露天小屋がたくさん立っている、人気のない静かな場所だった。
あれっ!??
わいわい遊ぶ浅いプールじゃないの???
私が困惑していると、パパさんは施設の人と話をしたあと、小屋の入口を開けて言った。
「ここがファミリープールだよ。貸し切りの個室だから、裸になって泳いでも大丈夫だよ」
――小屋の中には、10メートル四方くらいのプールがあった。
パパさんの言う「ファミリープール」とは、大勢の家族連れがわいわい遊ぶプールではなく、 家族単位で貸し切りできるプールのことだったのだ。要は、日本の温泉にある「家族風呂」のプール版であった。
小屋は簡素で天井はなく、開放感たっぷり。プライベートサイズとはいえ、プールも広々としている。
こ……ここで裸になって泳ぐの……!?
さすがの私もためらった。
水着があれば抵抗なかったと思う。あるいは、これが「露天風呂」だったなら。
でも、日本人女性の感覚的に、いくら壁があるとはいえ、開放感たっぷりのプールで素っ裸で泳ぐというのはちょっと……無理だった。
「ごめん……ここで泳ぐのは無理……」
「ええっ、どうして!? 鍵もかかるし、誰も見ないから大丈夫だよ!?」
パパさんはそう言ってくれて、多分本当に他意はなかったと思う。
でも、やっぱりここで素っ裸になるのは、生理的に無理だった。日本のプールでも嫌だったと思う。だってプールじゃん! プールは裸で泳がないじゃん!?
このシチュエーション、トルコ人女性なら喜んだのか、露天風呂好きな日本人なら喜ぶと思ったのか、それとも単におじさんが乙女心を読み誤ったのか、今でも謎である。
とにかく、私はプールに入るのを断った。
帰り道では、パパさんはちょっと不機嫌だった。
「ちゃんとファミリープールだよって説明したのに……いいって言ったから連れてきたのに……」
おっしゃる通りである。
私が「ファミリープール」のイメージを勝手に勘違いして、ちゃんと説明も聞かずに「よくわかんないけどオッケー」したのが悪かったのだ。
なんで嫌だったかもうまく説明できず、私は謝ることしかできなかった。
そんなことがあったが、いよいよ帰る時間になったときは、パパさんも、もちろんママさんと子ども達も、笑顔で送り出してくれた。
一人旅で思いがけないホームステイ体験ができて、本当に楽しかった。
またいつかトルコのパムッカレに行ったときは、あの「ファミリープール」に行ってみたいと思う。
今度は自分の家族と一緒に、水着を持って。
トルコ一人旅で出会った美少女の家に泊めてもらったら驚愕の場所に連れて行かれた話 四辻さつき @satsuki_y
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