才能とは観測するまで分からない卵である――。

 怪しげなお店。名前が「卵屋」。でも、レストランではない――。
 これだけで、何だか面白いことが始まりそうな気がしないでしょうか? 私はそう思ったので読み進めてみたのですが、どんどん怪しげなお店の店主の話に引き込まれていきます。
 レストランではないなら、何なのか。
 このお店は「卵を売っているお店」なのです。しかしただの卵ではありません。
 店主はカラフルな卵を前にして、こう言うのです。

 ——ここは、才能の卵を売っているお店なのです。

 客は卵を買ったらそれを孵化させ、卵から生まれた子どもを育てる。そうすることで、元来備わっていた才能が開花され、世に羽ばたくことができるというのです。しかし、絶対にそうなるとは限らない、と店主は言います。
 育成する側と才能の卵から生まれた子どももそれ相応の努力をしなければならない――、と。
 そのため、ほとんどの卵が殻を破れずに終わるのだというのです。
 しかし、それよりも才能を確実に開花させる方法があるというのですが、果たしてそれはどんな方法なのか……。
 不思議な話に引き込まれ、まるでここの世界と異世界のはざまにいるような感じがしますが、最後にほっぺたをつねられたように現実に戻って来るところがまたこの作品の良いところのように思います。

 そう言えば作者さんが、キャッチコピーにこんなことを記載しております。

 ——才能とは、シュレディンガーの猫みたいな卵だと思う。
 (『ブレイク・ザ・エッグ』キャッチコピーより)

「シュレディンガーの猫」とは量子力学の思考実験の話ですが、それについて詳しく知らなくてもノープロブレムです。要は「才能とは観測するまで分からない卵である」ということなのですが、果たしてこれが作中とどういう関係があるのか、気になる方は是非読んで確認してみてください。