第3話 住民登録は祈祷所で

「イジーチ、いつまでボーッとしてんだい。まずは住民登録しないと」

 トキオの母ちゃんに連れられてやって来たのは村の祈祷所。教会とは呼ばずに祈祷所というらしい。なぜならそれぞれ祈る神が違うから。なるほど上手い仕組みだーと感心しているうちに祈祷所に着いてしまった。だがそこで空気が変わる。それまで姿を見せていなかった男衆が完全装備で俺を取り囲む。


「えっ!?どういうこと?」

 驚いてトキオの母ちゃんの方を見ると、彼女は特に慌てる様子もなく答える。

「大丈夫だよ。祈祷所に入れないやつは罪人で、入って祈れば住民登録表がもらえる。万が一あんたが入れなくて逃げ出そうとしたら、こいつらが取り押さえるって話さ」


 なるほどねー、よくできた仕組みだーと感心していると、ガバッと祈祷所の扉が開いて吸い込まれた。よく聞いてくれ。俺が歩を進めて入ったんじゃない。体重120キロの俺が宙に浮いて吸い込まれたんだぜい。えーっと驚くトキオの母ちゃんや男衆の声を背に勢いよく吸い込まれると、バタンと扉が閉じる。





 目を閉じていたわけではない。でも扉をくぐるときの映像的記憶がない。で、今はというと小さい花が一面に咲く野原に来ている。空気の匂いもさっきの村とは違う。うん、考えるのはやめよう。ラノベ以外の書物に触れたことがない俺には難しい科学的解釈は無理。詳しいのはラノベ的エセ魔術理論のみ。別名妄想とも言う。でもこの風景、なーんか見覚えがあるんだよなー。俺のやや腐敗気味の記憶が正しければ、右手に行けば干からびた女神様のご遺体があるんだよねー。




 はい、ありました。記憶があっててよかったというよりも、目の前のカラカラに乾いたご遺体が悲しい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る