第5話 女神の置き土産

 女神様の干からびたご遺体をなんとかしたいと途方に暮れていると、舌打ちした光の玉とは違う感じの自動音声っぽい声が頭に響いてきた。

「保存情報の転送を開始します」


 なんと!女神様が俺宛てに何か役に立つ情報を残してくれていたのか!ああ、女神様、なんと慈悲深い・・・と普通は感動するところなんだけど、もし、もし万が一俺の妄想小説どおりだとしたら、女神様は俺の脳を勝手にパーテーションして間借りするんだよね。

 オレンジゴールドのゆるふわカールで、可愛いと美人が絶妙にミックスされたルックスなのに、ものすんごく高飛車なんだ、これが。

 それを思い出したら、なんか脳がデフラグされてる感じがしてきた。うん、なんかすんごい頭痛で気を失ったりするんじゃないかなー。





「転送、完了しました。転送された情報は必要に応じて順次解凍されます」

 うん。なんともなかった。あっけなかった。

「一つのファイルを解凍します」

 おっ、早速来たね。なんだろね。


「この情報を受け取られた方にお願いします。わたくしとこの世界のことは特に気にされる必要はありません。地上に降りられた後はご自由にお過ごしください。あと五百年くらいはこの世界は維持されると思います。この世界は・・・」


 なんて、可愛い声なんでしょう。はい、決定です!どんな悪どい手法を用いてでもこの女神様を復活させます。なんだったら、地上の生き物殲滅します!

 いやいや、待て待て。この声になんか魔法的サブリミナルが仕込んであって、洗脳されてるのかもしれない。でも、この声は・・・今まで聞いたどの声優さんの声よりもいいっ!


 最初に解凍されたこの音声ファイルによると、この世界は俺の妄想小説とは異なり、割と普通の世界であるようだった。俺の妄想と共通するのは祈りが得られなくなって神々がその存在を維持的なくなったことと、魔物、魔人の存在だけだった。

 獣が食べるよりも殺戮することに悦びを見出し、瘴気や怨念を取り込んで凝縮させ体内に魔石を持つようになったものが魔物、人が強盗、強姦、殺人等を重ねて同様に魔石を持つようになったものが魔人。魔物も魔人も魔石による魔力の取り込みと魔力循環で生きているので、内臓が半ば腐っている。ろくに消化もできないくせに食いたがる殺したがる。近くにいれば腐敗臭がするのですぐに分かるらしい。貴族で魔人とかだと香水振りかけまくってそうだな。



 はー。そんなことより、やっぱり女神様のご遺体、なんとかしたいなー。



「十秒後に地上に送還します。衝撃に備えてください」

 え。

 衝撃って何?その予告の方が衝撃なんですけどっ。

「ちょっと待って、ちょっと待って、衝撃って何ですか。それに女神様のご遺体をせめてどこかに安置したいんですけど」

・・・

「地上への送還を中断します。一つのファイルを解凍します」

 うおっ、さっきの女神様の声のときはなんともなかったのに、今回はなんつーかお酢を一気飲みしたみたいに腹がゴロゴロする。うおー、なんじゃこれ。

 下痢になりそうな腹を抱えて俺がうんうん唸っていると、自動音声さんが畳み掛けてくる。

「魔力循環にやや難あり。保有魔力量ゼロ。魔法の使用に不適切な素体のため、暫定処置を施します。衝撃に備えてください」

 衝撃、また衝撃なのね。なんで?ここは女神様の幻影がほっぺにチューとかしてくれて、チート魔力が備わるシーンじゃないの?

 とかなんとか考えていると、ふわっと体が浮いた。そして、俺の体がぐるぐる回る。

「うおー、なんでー?これで魔力?人間洗濯機じゃなくて?」




 何を叫んでみても止まらなかった。グリングリン、青空には小鳥がピヨピヨするくらい回された。今の俺は失礼かとは思ったが女神様のご遺体に尻を向けてゲロを吐いている。

「魔力使用に向けての暫定処置完了。当該素体には魔力肝が存在しないため外部魔力の取り込みができません。体内に蓄えた魔力のみが使用可能です。」

 自動音声さんが淡々と説明してくれる。でも俺は気持ち悪すぎて何も反応できない。ちなみに魔力肝とは肝臓の裏に張り付くようにくっついている魔力タンクなんだそうな。ある人とない人がいるらしい。


「その死体の処置を行いますか」

「死体とか言わない!頑張って力尽きた女神様のご遺体!」

 俺は眉間にしわを寄せて、なんとか言い返す。


「死姦しますか」

「するかー!言っていいことと悪いことがあるだろうが!」

 本気で怒鳴る。あ、なんか目眩する。

「・・・」

 自動音声さん黙る。



 なんか自動音声さん、自動じゃないよねー。今になって違和感満載。

「ねえ自動音声さん、自動音声さんには名前ないの?」

「すでにジョニダン・イジーチによって名付けが行われています」

 ・・・ん?名前つけたっけ?


「どんな名前?」

「主神ソレイユ、と名付けが完了しています」

 ・・・え?


「最初の音声ファイルの可愛い声は?」

「ジョニダン・イジーチの興味を引くために合成された音声です」

「そうかー。可愛すぎてかえって話に集中できなかったけどねー。ほんじゃあ、ソレイユ様って呼べばいいの?」

「呼称の選択権はジョニダン・イジーチにあります」

「じゃあソレイユ様ってことで。ソレイユ様のご遺体を天蓋付きのベッドとかに安置したいんだけど・・・」

「死姦しますか」

「しねーわ!その前にカッピカピじゃねえか、カッピカピ!」

「・・・」

「あ、なんか、ごめん」



 俺の半ば腐った脳みそに転送されたのは主神ソレイユ様そのものでした。



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