第7話 最初の村に戻ってきました
最初の村に戻ってきた。もちろん祈祷所から出る。というか入ったときと同じで飛び出す感じ。俺としては脳内のソレイユ様に文句を言いたい。
『ソレイユ様、もっとなんかゆるく着陸できないですかね』
『見事な受け身でした』
『そりゃ、どうも』
そういえば、出てきたときは男衆に取り囲まれないのかね。
「あー、イジーチだ。おかえりー」
そう言って小六?中一?それくらいの男の子が駆け寄ってきた。
んん?
「ひょっとしてトキオくんか?」
「そうだよ」
「えー!随分成長しちゃったな、おい!」
「何言ってんだよ。イジーチが五年も祈祷所にこもってたんだよ。あん時俺七歳で今十二歳だよ」
「なんですとー!」
参りました。主神ソレイユ様とわちゃわちゃしている間に五年も経っていました。グリングリン洗濯物みたいに回されていた期間は二年間くらいでしょうか。そりゃゲロも吐きますよ。ますますどうしていいのか分からなくなります。しかし魔法のためにも栄養補給だけはしておかないと。
「なあトキオくん、どこか食べ物売ってる店ないか?」
「ん?ミセ?なに、それ?」
ああ、地方の寒村とかだと完全に自給自足で店とかないのかな。
「何かと交換でモノを売ってくれる所なんだけど、それはいい。みんな食べるものはどうしてるんだ?」
するとトキオくんは祈祷所の裏の森を指差して説明してくれた。
「あの森をうろうろして食べるんだよ。虫とか葉っぱとか。ネズミとかウサギとかは解体して焼かないといけないから、面倒すぎてみんな食べないよ。イジーチは体大きいからそういうの食べてよ。食べやすいやつは小さい子のためにとっといて」
「ああ、分かった」
そういえばトキオくんはお兄ちゃんな子だったね。それにしても・・・ちらりと森を見れば村の人たちは歩き回っては何かを拾い、口に入れたり、捨てたりしている。その姿は動物系のドキュメンタリー番組を見ているようだった。なんとも言えない気分だ。地域ごとに食べるものが大きく異なることについて特に思うところはない。文化レベルなんてものは先に近代化を果たした国の垂れ流した一方的な評価なのも分かってる。でも、なんか、ショックだ。
「さて、迷惑にならないようになるべく奥に行きましょうかね」
ヨッコラセっと立ち上がると、まわしがぽとりと落ちた。フリ○ンである。
「およよよ」
慌てて前を隠し、祈祷所の陰でまわしを締め込む。どうやら急激に痩せたらしい。危険だ。痩せるだけならいいが、脱水はまずい。手足が震えて何もできなくなる。水だ。まず水を。
『イジーチ、脱水状態が危険域に達しています。魔法で水を摂取しましょう。胃の中に直接的に水を出すか、手のひらに水を出しそれを飲むか。・・・自由に水を出せることを他者に知られるのは望ましくないので、胃の中に直接少しずつ出しましょう』
むむ!脳内ソレイユ様の長文! と思ったら、魔法で直接胃の中に水を出せとな?どうやって?
『「魔法はイメージが大事」というのはラノベの基本では?』
いや、そうですけど。そうですけど、前世の記憶を持ったまま異なる世界に転生(それもおっさんのまま)というのは想像の何倍もキツい。匂いとか食習慣とか臭いとか・・・自分のも含めた体臭がやばい。吐き気がする。そりゃ魔物とかに見つかっても仕方ないよ。臭うよ。ネイチャー系の映像製作会社のスタッフさんは蚊とダニと寄生虫と臭いで苦しむらしいが、俺はこれからもう一回死ぬまでの間ずっとそれが続く。
「はー」
『ため息よりも水を』
「はい」
自分の胃袋を想像し、その中に半カップつまり100CCの水が湧き出るイメージをする。
「おっ」
『ブラボー』
「あ、どうも」
魔法もすごいけど水もすごい。たった半カップで落ち着いた。まだ手足に力は入らないが震えは治まってきている。
『イジーチ、この場を離れましょう。先ほどの少年が示した森を抜けて反対側に出ます。歩きながら魔力循環の練習をしてください』
「それも俺のイメージでいいんですか?」
『そうです。イジーチは体脂肪魔法の開祖です。私の適当な指示で魔法が使えてしまった天才です。・・・先ほどは魔力循環を強制的に開始させるつもりでイジーチ本体を回転させてしまいました。・・・そういうわけなのでイジーチのイメージ優先で練習した方が良い結果をもたらすでしょう』
「なんかかっこいい感じにまとめたけど、さっきの大回転は失敗だったってことですよね」
『・・・他の住人に見咎められるといけません。「魔力循環歩き」を始めましょう』
なんだよ、「魔力循環歩き」って!名前つければ凄そうとか、そんな誤魔化しは・・・まあ、いいかな。こうやって一見独り言言いつつ、歩きつつ、胃袋に水出しつつ・・・。鈍臭い俺にしてはうまくやってる方だろ。
常温でバターを溶かすように体脂肪が少しずつ溶けてカロリー輸液の点滴のように血流に乗って全身を巡るイメージ。
こりゃ、すごいわ。ダルさも乾きも空腹も抑えられて背筋が伸びる感じがする。実は古代の力士は皆魔力循環使えてたとか、大横綱と呼ばれる人たちは当たり前のように魔力循環してるとか! そんな厨二力士あるあるを考えつつ森を進むと、ダークファンタジー感満載の光景に出会った。
ジョニダン・イジーチは体脂肪で魔法を使う。 キングチキンカツ @king_chicken_cutlet
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