様々な立場からの論戦が楽しめるエッセイ

 性や暴力などの表現に関して、カクヨムでは青少年への配慮が呼び掛けられています(ガイドライン「カクヨム上での表現について」より)。ゆえに、現行のカクヨムに成人限定(R18)作品の置き場所はありません。
 そんな中、筆者はエッセイを通じてゾーニングや規制の必要性について説いています。それに対し様々なユーザーからコメントが寄せられているのですが、どうも説得力に欠ける主張が多い印象。
 例えば、ありがちな「表現の自由」を盾にした規制排除の訴え。これは少し身勝手な意見といえるでしょう。筆者も運営も「書くな」とは言っていません。単に「場所を選べ」というだけの話。世の中は有限ですから、一人一人が己の権利ばかり押し通していては社会は成り立たないのです。そもそも映画でも漫画でも、世間には当たり前に規制が存在します。どうして小説だけ、その枠から除外すべきなどと思えるのでしょう?
 もう消されてしまったようですが、こんな意見もありました。規制に賛成の人は、性を汚れたものだと決めつけているからそういう考えに至るのだと。主張する本人は性を崇高なものと信じているようですが、ではその方は公衆の面前で性行為ができるのでしょうか? 崇高な行為だから、どんな相手でも抵抗なく受け入れられますか? 無理ですよね? いくら崇高なものと信じようとも、性というのは人目をはばかるもの。利己的な欲求に過ぎません。詰まるところ性に対する価値観と、それを人前に晒すかどうかは別問題。勝手な思い込みで規制を訴える人の価値観を一概に決めつけるなんて、まさに差別や偏見そのものです。
 この他「判断基準が曖昧だから規制すべきでない」や「全作品を網羅できないから規制すべきでない」という意見も。いやいや、そんな言い訳が通じるなら、とっくにレイティングは世の中から消えてますよ。曖昧でも網羅できなくても、社会秩序を守るためにやるべきことはやるんです。犯罪を撲滅できないからといって、取り締まりを諦めないのと同じ理屈。現に世の中はそれを必要だと判断し、実行しているわけですから。
 そういえば「過激な表現の青少年への影響」を規制反対の理由に挙げているユーザーもいました。影響なしという研究結果を見つけたから、やるべきではないというのです。もちろん逆の研究結果も世間には公表されています。これに関しては、筆者も言っている通り「可能性があるなら対策を講じておくに越したことはない」という話。同じ人間などいないわけで、影響の程度も人それぞれ。研究に際してたまたま影響の少ない被験者が集まればそういう結果になるし、逆もまた然り。それらの研究結果が拮抗しているとすれば、単純に半数くらいは影響があるとも考えられます。であれば、やる価値は十分ありますよね?
 このように思案材料探しには有用なエッセイですが、ちょっと残念な点もあります。実は作中のキーワードである「表現規制」の定義が曖昧で、アンケートから導き出された「ゾーニングには賛成、表現規制には反対」という意見が実行性のない机上の空論である可能性が危惧されるのです(詳しくは応援コメントを参照)。
 まあそれを差し引いても、色々な意見に触れて考えることは大切だと思いますので、皆さんもぜひ一度ご覧になってください。

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