望みの部屋
飯田太朗
欲しいものは?
私たち夫婦が町はずれの一軒家を買ったのは、シンプルに都会で暮らす意味がなくなったからだ。
夫は失業中だった。でも私は東京の小さな会社で働いていて、その会社が昨今のウィルス騒ぎでテレワークを推奨するようになり、オフィスに行くことがなくなった。必然、私たちの住みたい場所に住むことになり、かねてから大自然に憧れのあった夫はこの森に囲まれた古ぼけた家を熱望、購入……という次第である。
黴臭い。虫が出そう。
ハッキリ言って私はあまり乗り気じゃなかった。ただ私と夫じゃ何故か夫の方が発言権があった。仕方なくこのほとんど廃墟みたいな家に越すことになった。
あの部屋はそんな、引っ越し荷物の片付けの途中に見つけた。発見者は夫だった。
「この壁の向こう、何かある」
壁を叩く。確かに音が違う。
買った家だし、ということで壁を壊した。果たしてその部屋は中にあった。
「広い部屋だなぁ」
畳二十畳はある部屋。確かに広い。購入時に家の見取り図は見せてもらったが、こんな部屋……。
「変だよ。不動産屋に電話しよう」
あれ、スマホは……とポケットを探す。片付けする時にどこかに置いてしまったか。取りに行くのは……なんて思っていた時だった。
部屋の真ん中。
あったのだ。私のスマホが。
どうして? ちょっとしたパニックだった。入ったばかりの部屋の中央に、置き忘れたかのように自分のスマホ。意味が分からなかった。怖くなった。この部屋は何かまずい。お札的なものを貼って除霊とか……なんて思っていた時だった。
部屋の中央。
お札があった。毛筆で何やら書かれた一枚の札。ここに来て私は、ようやく何が起きているのか分かってきた。
バット。
頭に思い浮かべると、部屋の中央には、やはりバットが……。
「稼ぐ旦那さんで羨ましいわ」
近隣の奥様方との茶話会でそんな話になる。いやいや、そんな。
「どうやってそんな旦那さんを?」
そう訊かれて、答える。
「欲しいと願ったから……」
了
望みの部屋 飯田太朗 @taroIda
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