食わず嫌いと宇宙
シカンタザ(AI使用)
食わず嫌いと宇宙
さる歴史学者が言った。
「国民が『食わず嫌い』をする傾向が強くなったら、その国はやがて相対的に凋落してゆくのだということを肝に銘じてもらいたい」
「…………」
なるほど、と思わされたものだ。たしかにそうかもしれない。金がかかるから、リスクがあるから、大変だから……。食指を動かしてみない、体験してみない。そしてそういう人が増えているのは事実だろう。
だがしかし、だ。たとえばこの私もそうだが、若いころにはいろいろと冒険をしたものだった。親の反対を押し切って外国へ行ってみたし、山登りやカヌーにも挑戦した。失敗もしたが、成功したこともあった。しかし今、私は何に挑戦しようか? いっこうに思いつかないのだ。これはちょっと危ういことではないのか。リスクを避けて安全パイばかりを狙っていたら、人間は退化する一方である。
ある作家がこんなことを言っていた。
「自分は最近、小説をあまり書かないんですよ」
どういう心境の変化だろうかと思って聞いてみると、こうだった。
「だって、『食わず嫌い』をする人があまりに多すぎるでしょう。一度くらいはやってみなくちゃいけないなあと思いましてね」
それはまさに正しい意見であり、忠告であろうと思うのだが……。テレビをつけっぱなしにしていると、時々とんでもない番組に出会った。内容はこうだ。
「今夜の九時五十五分、XX衛星第2放送において、あなたの常識を覆すような映像が流れます。ぜひご覧になってください!」
なんとも大仰な煽り文句ではないか。私は最初、何かの詐欺ではないかと疑った。しかし考えてみれば、「常識を覆す」という形容詞がついている以上、そんなに怪しげなものではなかろうと思った。そこでチャンネルを合わせてみる気になったのである。
画面に現れたのは女性キャスターの姿。背景はどこかのビルの屋上らしい。彼女はカメラに向かって言う。
「ただいまより、あの有名な『宇宙エレベーター』に関する特別番組をお送りします」……なんだ、あれか。
一瞬ガッカリした気分になったが、よく見るとどうも様子がおかしい。その女性は続ける。
「ご存知の方も多いと思いますが、『宇宙エレベーター』とは宇宙空間に浮かぶ人工のケーブルのことです。地球と月を結ぶ全長三十キロメートルのケーブルがあり、それを昇降機として利用する計画が進められています。この度、ついにそれが完成したということです! さて、中継を見てみましょう……」
画面に映し出されたのは、巨大な塔のようなものだった。長さは数十メートルはあるようだ。かなり太い鉄柱が何本も空へ向かって伸びており、その間に白いロープ状のものが渡されている。その先端はかなり高いところまで登っているらしく、雲の中に消えていた。
「ごらんの通り、地上から天に向けて伸びた鉄の柱の上に、シャトル型のゴンドラが設置されているのです。これを使って、人々は月まで行くことができるようになりました。この技術によって、人類は新たなステージへと進むことになるでしょう」
なるほど、これが例の映像か。しかし……。
「えー、現在、ゴンドラには乗客は乗っておらず、自動操縦により上昇中とのことです。もうすぐ見えてくるはずなのですが……」
女性がそう言ったときだった。
突然、画面が変わった。そこに現れたものは……宇宙ステーション?
「これは国際宇宙ステーションからの生中継です」
リポーターの声が入る。「おわかりでしょうか? 今、スペースシャトルの形をしたゴンドラが昇ってきました。これはすでに軌道上にある実験用モジュール、ミールとのドッキング・ハッチです」ミールというのは聞いたことがある。確か有人宇宙飛行用の船の名前ではなかったか。
「これから、日米による敵基地攻撃実験を開始します」
「…え!?」
思わず声を上げてしまった。聞き違いではないよな?
「ご覧下さい! まずはアメリカのミサイルが発射されました。続いて日本のロケットエンジンを積んだモジュールも点火しました。今、両者は無事にドッキングを果たしました。ご安心ください」
何を言ってるんだ、このレポーターは。
「これは軍事機密であり、決して口外してはならないこととされていました。しかし今回、特別に許可をいただき、その一部始終を録画したものを放送することになりました」
画面が切り替わり、ヘリコプターのローター音が聞こえてきた。見上げるようにすると、そこには……。
「……!!」
それは、奇妙な光景だった。
「ご覧のように、両国の戦闘機が空中でドッキングしています。もちろんこれは演習ではありません。実戦における初めての試みです」
たしかにそれは異様な眺めだった。
「これは『スカイフック』と呼ばれています。大気圏内でありながら、軌道力学上の制約を受けない空間、それが『スカイフック』です。つまり、ここからはどんなに遠くても三時間以内であれば、自由に飛行することが可能なのです」
いや待ってくれ。いったいこれは何なんだ。
「今、目標への攻撃を開始します」
画面が切り替わった。今度は何かの施設が映っている。
「ご覧下さい。これが対弾道ミサイル迎撃システム『XB-0』です」
私は息を呑んで見守った。しばらくすると……。
「すごい! 命中しました!」
リポーターの声が入った。だがそれは、ミサイルが標的に命中したというだけの意味ではないようだ。その証拠に、カメラがズームインして行くと、ミサイルの爆発する瞬間がとらえられていたからだ。
「ごらんの通り、たった一発のミサイルで、一基の迎撃システムが破壊されてしまいました。これが実用化されたなら、戦争のあり方が大きく変わることは間違いありません。我が国は、世界の軍関係者の注目の的となっています」
そこでまた映像が変わった。今度はどこかの空港のようであった。
「ご覧下さい。これが日本で開発された新型輸送機です。従来までの輸送能力を大幅に上回る、百トンクラスの機体です。これによって、自衛隊の海外派遣は大幅に拡大されることになっています。世界平和のために大きく貢献することが期待されているのです」
画面は再び国際宇宙ステーションに戻った。そこでは今もまだ、「スカイフック」を使った攻撃が続けられているはずだ。
「ごらんの通り、すでに多くの国々はこの計画に注目し始めています。アメリカもロシアも中国も、そしてヨーロッパも、次々に参加を表明してきています。今後、この動きはさらに加速していくことでしょう」
そこでナレーションが入った。「宇宙エレベーター」の建設が始まったのはわずか数年前のこと。当初は懐疑的な見方もあったものの、現在では誰もがその存在を認めざるを得なくなっていた。その最大の理由は、この計画が経済的効果だけでなく、軍事的にも大きな意味を持つことが明らかになったからである。「宇宙エレベーター」の完成によって、これまでは想像すらできなかったようなことが可能になるかもしれない。すなわち、月の裏側までわずか数時間で到達し、そこにある資源を入手することができるようになるのだ。
これは単に宇宙開発の分野だけに留まらない。エネルギー問題も解決できるだろう。たとえば、原子力空母を宇宙まで運ぶことも可能となる。さらに、火星、金星などへの有人探査も可能だ。まさに人類の未来を切り開くものと言えるだろう。
「我々はこの偉業を、後世に伝えていかなければなりません」
そう言って、画面はスタジオへと戻った。
「このように、我々の生活はますます便利になりつつあります。しかし、その陰には多くの人々の努力があることを、私たちは忘れてはならないでしょう」
「ありがとうございました。それでは、次のニュースに移ります……」
私はテレビの電源を切った。もうこれ以上見ていたくなかった。
それから少し経って、人類は地球外文明と接触した。しかしそれは、地球人が一方的に攻撃を受けたというだけのものだった。彼らは侵略者ではなく、むしろ友好的な存在だった。地球の人類と異星人の武力衝突が始まった。全世界生中継を私は食い入るように見た。レポーターが叫ぶ。
「ご覧ください!これが今まさに戦闘が行われている現場です!」
その瞬間、何かが爆発するような音が聞こえた。画面が揺れる。そして、リポーターの姿が見えなくなった。カメラが倒れたのだろうか。私は必死に目を凝らしたが、何も見えない。画面が切り替わり、再びスタジオの映像になった。そこにはいつものアナウンサーの顔があるだけだった。
「えー、ただいま入った情報によりますと、先ほど起こった爆発事故についてですが、どうやらミサイルの誤射によるものだということで……」
アナウンサーの声を聞き流しながら、私は呆然としていた。いったい何が起こったのか?
「アリゾナ州フェニックスから中継がつながっています。どうぞ」
画面に映ったのは、見覚えのある建物だった。確か、ここ数年のうちにできたばかりの博物館ではなかったか。だが、今はそんなことは問題ではない。画面が切り替わって、今度は別の建物が映し出された。どこかのビルの屋上にヘリコプターが止まっているようだ。リポーターは英語でこう言った。
「こちらのビルからはフェニックスの街を一望することができます。あの、ちょうど真ん中あたりに見えるのが……」
「あれは我が軍の施設だ」
そう答えたのは、通訳を介しているせいもあって、聞き取りにくい英語だった。
「我が国では、現在、異星人との戦闘が続いているのだ」
彼の表情は真剣そのものだった。
「あちらの方に見えているのは?」
「ああ、あれは我々が建設しているタワーだ」
「……ということは、あなた方は『異星人』と戦うために戦っているということですか?」
「そうだ。我々の目的は、あくまで異星人の支配からの解放なのだ」
「なるほど……、でも、『異星知性体』というのは、どんな姿をしているんですか?」
「姿形については、我々にもわからない。だが、高度な知能を持つ存在であることは間違いないのだ」
「そうなんですね。ところで、なぜ異星人との戦いを続けているんですか?」
「それはもちろん、奴らが人類の敵だからだ。我々は、奴らから自由を取り戻す必要がある」
「わかりました。貴重なお話をありがとうございます」
「いや、こちらこそ、我々のことを知ってくれて感謝するよ。それでは……」
そこで映像が終わった。
異星人との戦争。私はテレビを見ながら考え込んでいた。これは単なるフィクションなのだろうか。だとしたら、どこで誰が作った話なのか。少なくとも、こんな番組が放送された記憶はない。それに、私自身、過去にこのような話を聞いた覚えはなかった。しかし、今の話が真実なら、大変なことだ。宇宙人の存在も信じられないが、宇宙人との戦争はもっと信じがたい。
私は、かつて読んだ本の一節を思い出した。それは「進化論」について述べたものだ。その本の執筆者によれば、地球上の生命の進化にはいくつかの段階があるとされている。最初の段階では、細胞が核を持った状態で誕生し、そこから徐々に複雑化していく。そして、最後には、一つの巨大な生命体へと進化を遂げる。それがいわゆる「原初的状態」であり、現在の人類は「第一種」の状態だというのだ。もし、この仮説が正しいとすれば、「第二種」「第三種」の生物が存在することになる。つまり、宇宙人がいる可能性だってあるわけだ。
地球人は宇宙エレベーター、大気圏内でありながら、軌道力学上の制約を受けない空間を飛行する技術、対弾道ミサイル迎撃システム「XB-0」などの技術を発展させて製造された兵器を用いた。それらは、人類の生存を脅かす「エイリアン・ウェポン」と呼ばれる存在に対抗するためだ。しかし、エイリアン・ウェポンは人間とコミュニケーションを取ることはできない。そのため、両者は互いに殺し合うしかなかった。その結果、多くの犠牲が出た。そして、その数は増える一方だった。このままではいけない。そう考えた人々は、宇宙へ飛び立つことを決意したのである……。
この話は「異星人」という言葉が出てくるだけで、具体的な惑星名などは出ていないのだ。それに、異星人といっても、侵略者とは限らない。たとえば、人類が未開の地を探検していて、そこに知的生命体がいたとしたら? その文明が人類と敵対的なものである保証はあるのだろうか。
もちろん、これらの疑問を解決する方法もある。例えば、宇宙船に乗って、実際に異星人の住む星に行ってみるのだ。しかし、それは難しいだろう。そもそも、そんなことが可能なのかという問題もあるが、それ以前にまず、どうやってそこへ行けばいいのか。
私は窓の外を見た。そこには、相変わらず空が広がっていた。しかし、本当にそれは青く澄み渡った色をしているのだろうか。もしも、その中に無数の小さな穴が開いていて、その中の一つに吸い込まれたら? あるいは、逆にその穴の中から出てきたら? 私が住んでいるのは、地上数十メートルのところにある空中都市だ。それも、ほんの十数年ほど前までは、ごく普通の街だったらしい。だが、ある日突然、大規模な爆発が起きて、この場所だけが残ったのだという。
私は部屋を出て階段を下っていった。リビングルームの扉を開けると、そこにはいつものように、一人の男が座っていた。
「やあ、今日は遅かったね」
彼は微笑んで言った。
「すみません、少し寝坊してしまいました。朝食の準備ができていますか?」
「ああ、できてるよ。でも、君はまだ食べなくても大丈夫なんじゃないのかい? エネルギー補給のための錠剤があるんだろう?」
「ええ、ありますけど、せっかくですから、温かい食事を食べたいんですよ」
「そうか、まあ、君の言うとおりかもしれないな。じゃあ、準備しよう」
男は立ち上がるとキッチンに向かった。私はソファに腰掛けた。しばらくすると料理が出てきた。私はそれを食べた。味は普通だった。おいしいともまずいともない。ただ、栄養バランスは完璧だ。これが最後の晩餐になるかもしれないと思うと、少し寂しい気持ちになった。私は食器を流しに置いて水に浸した。それから、洗面所に行き、顔を洗い、歯磨きをした。髭剃りはしないことにした。最後に鏡を見て髪を整えた。それから寝室に戻り、服を着替えた。
「よし、これでいいでしょう」
「もう出かけるのかい?」
「はい、あまり遅くなると怪しまれますからね」
「そうか……」
「では……」
「ああ……」
私達は握手を交わした。
「それでは、行ってきます」
「気をつけて」
私はドアを開けて外に出ようとした。
バーン、バリバリバリ、と激しい音が響き渡った。私たちは慌てて避難シェルターに入った。シェルター内のモニターで外の様子を見る。近くで異星人と人類の戦闘が始まっていた。
「何が起こったんです!?」
「わからん、しかし、状況は最悪だ」
「どうしてですか?」
「見ろ、奴らは我々のことを敵とみなしている」
「それは困りましたね……」
私は頭を掻いた。
外での戦闘は、その後も続いていた。異星人たちは次々に爆弾を落としていく。その度に建物が吹き飛ばされていった。私たちの空中都市も爆撃を受けている。しかし、建物が崩れることはあっても、中にいる人間に影響はないようだ。そして、攻撃がやむと、また次の砲撃が始まるのである。私はシェルターの中を見回してみた。そこには先に二人の人間が一緒にいたはずだ。だが、今は一人しかいない。先ほどまで隣にいたはずの男の姿が見えないのだ。どうしたのだろう。トイレにでも行ったのか……。いや、違う。これはきっと夢なのだ。目が覚めたら、また元通りの生活が待っているに違いない。そこで私の意識は途絶えた。
次に目を開けたとき、そこは空中都市ではなかった。私は病院のベッドの上に横になっていた。身体には包帯が何重にも巻かれている。腕を動かすことができなかった。視線だけを動かしてみると、誰かがいることに気づいた。その人物は椅子に座って本を読んでいたが、こちらに気づくと、笑顔を浮かべながら近づいてきた。彼女は私の手を握った。その瞬間、私はここは夢の中の世界だと自覚した。私は彼女に尋ねた。
「あなたは誰ですか?」
彼女は答えた。
「私はあなたの妻ですよ」
やはり、そうだったのだ。ここは夢の中の世界だったのだ。私は彼女の手を握り返した。そして、その温もりを感じ取ろうとした。だが、その感触はなかった。それでも、心は満たされていた。
夢から覚めると、戦闘は終わっていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫」
私は自宅へ戻った。
後日、私はあの歴史学者と私的に話をすることになった。
「どうですかね、今の状況。人類が『食わず嫌い』をした結果でしょうか?』」
歴史学者が答えるには
「そうだね。確かに、その可能性は否定できないよ。でも、それだけが原因ではないんじゃないかな。例えば、異星人の外見が地球人に似ていたら? あるいは、彼らにとっての地球がどんなに魅力的な惑星だったら? そういった要因が積み重なった結果じゃないかと思うんだよね。つまり、彼らの行動パターンを理解できたら、人類にとっても大きな利益になると思うんだよ」
とのことだ。
私はこの話を聞いて、思った。もし、異星人が我々と同じ姿形をしていたとしたら? その彼らが、同じ言語を話し、文化を共有し、社会を形成して、互いに助け合って生きていたとしたら? 果たして我々は、彼らを侵略者だと見なして排除することができるだろうか。私にはできなかった。それは、かつて私が異星人を「悪」だと思い込んでしまったからかもしれないし、そもそも、彼らに知性があった場合の話だからかもしれない。だが、いずれにしても、私はそんなことはしたくないと思った。たとえ、それが自分のエゴイズムによるものだとわかっていても。
「ところで、君の意見を聞きたいんだけど」
「何でしょう?」
「君は、異星人についてどう思う?」
「そうですね……」
私は少し考えてから言った。
「わかりません。まだ会ったことがありませんから」
「そっか……、じゃあ、会ってみるかい? ちょうど、今日あたりにでもさ」
「えっ、今日ですか?」
「うん、急で悪いけどね。でも、ほら、こんな状況だし、いい機会だと思うんだ。まあ、無理強いはできないけどね」
私は考えた。そして、決断した。
「いえ、行きますよ。ぜひ連れていってくれませんか?」
「わかった。じゃあ、行こうか」
こうして私は、異星人に会うことになったのだった。
「はじめまして」
異星人が自動翻訳機を通じて語りかけた。
「こんにちは」
と私も返す。
「ようこそいらっしゃいました」
と異星人が続けた。
「お招きいただきありがとうございます」
と私も答える。
「どうぞ、ご自由におくつろぎください」
と異星人は言ってから、私の方を見た。
「ところで、そちらの方のお名前は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は、ケンジといいます」
「ケンジさんですか。覚えました」
「はい、よろしくお願いします」
「では、私はこれから、他の人たちを紹介しますね」
と言ってから異星人が部屋を出て行った。私はソファに座ってしばらく待った。すると、扉が開いて異星人が戻ってきた。
「皆さん、もうすぐここに来られます」
「そうですか」
それから数分後、異星人がまた部屋の外へ出て行った。今度は一人の男性を連れて帰ってきた。男性は椅子に座ると、こちらに向かって話しかけてきた。
「初めまして」
「どうも、はじめまして」
「私はカガクシャです」
「はい、存じております」
「私のことを知っているのですか?」
「はい」
「どうして?」
「本を読んでいますから」
「なるほど」
「ところで、あなたはどうして、この星に来たのですか?」
と私は質問してみた。
「それは……」
彼は答えた。
「あなたと同じような理由です。あなたと同じように、この世界のことをもっと知りたくなって、ここへやってきました」
「そうなんですね。お互い、勉強熱心で素晴らしいと思います」
「ありがとうございます」
和やかに話していると外が騒がしくなった。
「戦闘だ。早く避難しましょう」
異星人たちにうながされ地下シェルターに入った。モニターで外の様子をうかがうと、激しい戦闘が繰り広げられていた。
「危ない!」
異星人の一人が叫んだ。次の瞬間、建物が崩れ落ちてきて、私たちが入ってきた方の入り口を塞いだ。
「大変だ」
「大丈夫ですよ」
と異星人たちは言う。
「なぜ?」
「他の出入り口は無事です」
確かにそうだ。しかし、それはあくまで物理的な攻撃に対しての話である。
「ミサイルとか爆弾が落ちてくるかもしれませんよ」
「その心配はありません」
「どうして?」
「それは……」
と異星人が言いかけ、口をつぐんだ。そして、別の異星人が代わりに言った。
「ここは夢の世界だからです」
「夢の中?」
「はい」
「でも、さっきまで現実だったはずだ」
「いいえ。違います」
「どういうことだ?」
「ここは夢の中です」
「なぜわかる?」
「夢だからです」
「でも、夢なのに、なんでこんなにもリアルなんだ?」
「それは、これが夢だと自覚していないからです」
「でも、僕は今朝起きた時、これは夢だって気づいたよ」
「なにかきっかけがあったはずです」
「そう言われても……」
その時、壁の向こうから爆発音が聞こえた。
「まずい! 奴らがここまで攻め込んできたぞ」
「早く逃げないと」
「大丈夫だよ」
「何がだ?」
「みんな、夢だから」
「ああ、そうだな。よし、逃げるか」
私たちは地下シェルターから出た。
「どこに行こうかな?」
と私は異星人たちに声をかける。
「とりあえず、こっちに進んでみよう」
案内されたのは小さな部屋だった。
「ここで、少し休んでいこうか」
「いいですね」
私たちはソファに座って話をした。しばらくしてから私は尋ねた。
「ところで、皆さんはどうやってこの世界にやってきたのですか?」
「それは……」
異星人たちが口々に説明を始めた。どうやら彼らは、ある惑星からやってきたらしい。その惑星には、彼らと同じ姿形の知的生命体がいたようだ。だが、ある時、突然現れた侵略者たちによって、その文明は破壊されたという。
「それで、あなたたちの故郷は滅びてしまったんですね」
「はい。とても悲しかったです」
「でも、よく立ち直れましたね」
「はい。生き残った人たちと一緒に、何とかして生きようとしました」
「そうですか。頑張ったんですね」
「ありがとうございます。あなたも頑張りましたか?」
「はい。僕はなんとか生き延びましたけど、大切な人を失ってしまいました」
「そうでしたか。それは辛い思いをしたでしょうね」
「いえ、そんなことはありません。ただ、時々思うんですよ。もしあの時に死んでしまった方が良かったんじゃないかって」
「どうしてですか?」
「僕が生きていなければ、僕の愛する人は死ぬことはなかったんですから」
「そうですか。でも、ご主人の分まで生きることが、あなたの使命だと思いますよ」
「そうでしょうか?」
「きっとそうですよ」
「ありがとうございます。励まされました」
こうして異星人たちとの対面は終わり、しばらく経つと、人類と異星人の間で和平が結ばれた。和平内容は、互いに干渉しないというものだった。賠償金等は互いに一切要求しないことになった。人類側が譲歩した結果だった。
それから異星人の故郷となる星に人類が招かれるなど、人類と異星人の間に平和友好活動が続けられ、戦争のわだかまりは徐々に消えていった。技術や文化的な交流により地球の文明は発展した。戦後復興により経済も活性化した。
私は戦争中に異星人と親しく接したということでメディアに出演依頼が殺到した。書籍も出版した。今でも気になるのが2つある。「あなたの妻です」と言った夢の中の女性。あの人のことを自分の妻だと認識した。でも実際は妻ではない。もう一つは異星人が言った、「ここは夢の世界」という言葉。あれはどういう意味だったのだろう?夢と現実の境目が曖昧になり、夢と現実の区別がつかなくなるということだろうか。それとも、夢を現実だと勘違いしてしまうという意味なのか。あるいは、どちらも正しいのか。わからない。ただ一つ言えることがあるとすれば、それは夢と現実が関係なくなってきているということである。
ある日、私は宇宙人と出会った。場所は、とある病院の一室である。そこには一人の女性が横になっていた。ベッド脇にある椅子に座りながら、私と彼女は会話をしている。彼女は、私が今まで出会った中で最高に素敵な人だった。容姿端麗で知性的で、そして優しい。彼女の名前はユカ。彼女とは病院で知り合った。入院中の彼女に、私の作った本をプレゼントしたことがきっかけだ。本を読んでくれた彼女が感想を伝えてくれた。それが嬉しくて、私は何度もお見舞いに行った。そして、次第に親しくなっていった。やがて彼女と結ばれ、平穏な日々を過ごすことになった……。
食わず嫌いと宇宙 シカンタザ(AI使用) @shikantaza
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