砕けて散った僕のことを、君は綺麗とつぶやいた。
飯田太朗
拍手の中に混ざった棘を、僕はちゃんと知っている。
「先鋒、紀田」
顧問の村上先生が僕の名前を呼ぶ。僕は胸の奥でガッツポーズを握る。やった!
「やられちゃったな」
隣にいた船越が小さく笑う。僕は彼の肩を抱く。
「君がいたからここまで頑張れた」
「それ言うのかよ」
「本音だもん」
日立高校剣道部。次の新人戦のレギュラーメンバーを決める部内戦が先日あった。その成績を元に団体戦レギュラーが決まるのだが、僕と船越は勝ち数本数共に並んでいて、後は村上先生の目にどう映ったかでレギュラー入りが決まる状況だった。今日はその結果発表。僕も船越も、お互いにお互いを信じていた。
結果から言えば、そう、先の通り、僕だった。僕は団体戦の先鋒として、切り込み隊長を任された。船越は残念そうな顔をしていたが、拍手で僕を讃えてくれた。嬉しかった。船越の分も戦う。そう決心して試合に臨んだ。
これも結果から話そう。僕はあっさり二本負けしてしまった。敵の先鋒は技術体力共に僕よりずっと高くて、僕はほとんど為すすべなく倒された。
試合終わり。竹刀を合わせ、一礼し、それぞれ下がると、僕はチームのメンバーに迎えられた。僕が先鋒になった代わりに補欠になった船越は、どんまい、と僕の肩を叩いてくれた。
試合の後は村上先生のところに行って反省点、よかった点、指導してもらうことになっている。指導が終わればチームメンバーで拍手をして選手の労をねぎらう。僕は村上先生に「勝てないと分かった段階で一本負けに押さえるべきだった」という旨説教された。おっしゃる通りで、僕は僕のつまらないプライドで勝負を挑んで、結果二本負けしてしまった。
村上先生の言葉が終わり、僕は下がる。例によってチームメンバーが拍手をしてくれる。けど、僕は知っている。
船越、君の拍手、大きいよね。
砕けて散った僕のことを、君は綺麗とつぶやいた。 飯田太朗 @taroIda
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