絶対に裏切らない電波

結騎 了

#365日ショートショート 089

「よし!『絶対に裏切らない電波』の完成じゃ!」

「博士、私は本当に嬉しいです。博士のもとで助手をして十数年、こんなに充実した日々はありませんでした」

 寂れた研究室。助手は涙ながらに博士の手を強く握った。

「なにを言うか。お礼を言うのはこっちじゃ。君のおかげでこの世紀の発明が完成したのだからな」

「そんなご謙遜を。研究が行き詰った頃、ちょうど私の母が難病に倒れて……。あの時、治療資金を援助してくださったのは博士じゃないですか。こんなことがあってたまるかと、咽び泣きましたよ」

「あれはな、君がいないと研究が進まないと分かっていたからじゃ。ほら、こうして完成したのが何よりの証明じゃろ」

 博士は小さなボタンをテーブルから拾い上げた。

「このボタンを押すと、『絶対に裏切らない電波』が半径3メートルに発信される。その電波を浴びた者は、忠義心をひどく刺激されるのだ。心に誓った相手を絶対に裏切ることができなくなる。要は、マインドコントロールじゃな」

「さらっとすごいことを仰いますね。これを使って命令することを考えると、軍事産業の新たな要にもなり得るでしょう。いや、しかし……。本当に完成させてしまうとは。途方もない道のりでした。ええ、本当に」

「さて、と」。博士は人差し指を伸ばした。「最後に押し心地の確認じゃ。まあ、電波が発信されても、君と私の仲では意味がないがな。試しに押してみよう」

 ……ぽちっ。

 音にならない音、モスキート音のような耳鳴りがふたりを包む。

「残念です。本当に」

 助手はそう呟き、懐から拳銃を取り出した。一発、胸。もう一発、頭。絶叫する暇もなく、博士は肉塊となり倒れた。

「こんな電波さえ浴びなければ、あなたに心変わりしたままでいられたのに。ああ、なんて怖い発明だろう。私以外の産業スパイもきっと狙うに違いない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対に裏切らない電波 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ