武器を持つ
夏生 夕
第1話
こんにちは。
改めまして、野々宮佑樹です。
こうしてどなたかの前でお話しすることには慣れていないので、お聞き苦しい所はあるかと思いますが。与えられた時間は全ういたしますのでお付き合いください。
振り返れば私の日常は大きく変わったのはこの春です。
一つ一つの変化は小さなものだし、端から見たら本当に些細なことだと思います。
しかし、そのどれもが今や・・・ええと、酸素です。部屋の空気を循環させ、私の心臓を動かしている。
まだ寒さ残る春の夕方。
部屋から閉め出され、いや送り出され踏み出した一歩が今日に繋がっています。
お醤油を買いに出掛けたんですけど。
この醤油一本、この散歩30分がどれだけのものをもたらしたか。
余りの事に抱えきれず、そのままでは零れてしまうところだったので久しぶりに日記をつけました。いつも持ち歩いています。
すいません。こんなボロっちいの、人様にお見せするとまた編集の方に怒られそうですが。今すごい見てますねこちらを。
しかしこの薄くて頼りないノートに積み重ねられた私の文字は、これは、必ず私の武器になる。
日常は私の矛であり、
人との関わりは私の心の盾です。
不安に駆られた夜の散歩、
ご近所付き合い、
古い友人が訪ねてくる事もありました。
最近ではその紹介でお犬様の散歩をお手伝いしたり、
道すがら見つけた私だけの落ち着ける空間で過ごしたり。
この日は・・・?あぁ体調をものすごく崩した時がありました。文字になってません。
ね、普通のことばかりでしょう。
でもここには書かれていない、しかし私の心から零れることは決して無い事実があります。
担当編集の方に見つけていただいたことです。
恐らくあの視線から察するに、公の場を私的流用するなと。言いたいことは筆に乗せろと。多分そう訴えていると思います。
でも大切なことは口に出せと私に言い聞かせているのもまた彼女です。
日記には起きたことしか書いてありません。でもこの裏側には彼女がいる。
ご近所との縁を結んでくれたのも、友人に私の様子を見るよう連絡したのも恐らくこの方です。
私を、私の部屋から踏み出させたのも。
ありがとう、ございます。
私には書くことしかできません。
それでいい、と、
何があったとしても、味方でいてくれる人がいる。
これほどの武器があるでしょうか。
やはり日記をつけてよかった。零れず汲み取り残せています。そして見返す度に増幅してまた私を強くする。
よたよたと必死に駆け、書き切った文章たちが、今度は誰かの武器になることがあればこんなに嬉しいことはありません。
今日集まってくださった方々のように、本を手に取り読んでくださる方いるから私はまた書き続けられます。
皆様も、私の武器です。
いつもありがとうございます。
結局は長く話しすぎてしまいました。
実はずいぶん前から、さっさと締めろと編集さんの視線を浴びています。
では、お持ちいただいた本に、サインを書かせていただきます。こちらの方からですね、
ありがとうございます。
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