とある少女の日記より

仁志隆生

とある少女の日記より

 4月15日

 おなかすいた。

 ごはんない。

 ママ帰ってこない。

 わたしひとりぼっち。

 おなかすいた。




 4月16日

 土よう日で学校ない。

 おなかすいた。

 月よう日になったら給食を食べられる。

 おなかすいた。




 4月18日

 いじめられた。

 お金払ってないのに給食食べるなドロボーって。

 先生はいいって言ってるのにどうしてだろう。

 おなかすいた。




 4月21日

 ママちっとも帰ってこない。

 どこ行っちゃんたんだろ。

 おなかすいた。



 

 4月22日

 またいじめられた。

 もう学校行きたくない。

 おなかすいた。



 

 4月23日

 なんか食べるものないかなあとお外歩いてたら

 知らないおじさんが話しかけてきた。

 おなかすいてるって言ったら、レストランにつれて行ってくれた。

 ゆっくりたべないとおなかこわすよって言われた。

 だからゆっくりたべた。ハンバーグおいしかった。

 たべたあとママがかえってくるまでうちにごはんたべにきなさいって。

 もうおなかすかなくていいんだ。うれしかった。




 4月30日

 ごはんのあとでおじさんがママはお空にいっちゃったみたいだよと言った。

 わたしが泣いてるとおじさんがわたしの頭をナデナデしてくれてうちの子にならないかって言った。

 おじさんがパパになってくれた。

 うれしかった。

 ほんとのパパはとおくに行っちゃって、いつあえるかわからないから。




 5月1日

 パパがゲームかってきてくれた。

 いっしょにあそんだ。

 たのしかった。

 ごはんおいしかった。




 5月5日

 きょうはこどもの日だって。

 パパがかしわもちをかってきてくれた。

 おいしかった。

 ごはんのあといっしょにおふろに入った。

 パパがからだ洗ってくれた。くすぐったかった。

 おふろからでたらおいしいジュースをくれた。

 このあといっしょにねようねって。

 パパとねるのはじめてだたのしみだなあ。

 



 5がつ6にち

 ママのゆめをみた。

 おそらのうえでえんえんないてた。

 おそらのうえってかなしいことないんじゃないの?

 パパにいったらきっとわたしがげんきにしてるのがうれしくてないてるんだよだって。そうなんだ。ママもうれしいんだ。

 きょうもいっしょにねようねって。

 うれしいな。




 5がつ15にち

 まいにちいっしょにねてる。

 なんだかあたまがぽわぽわする。

 なんでだろ。

 ごはんおいしかった。




 5がつ16にち

 ぱぱがたくさんのへんなおじさんたちにつれていかれちゃった。

 わたしもへんなおねえさんにつかまっちゃった。

 ぱぱかえして。

 おなかすいた。

 



 5がつ30にち

 おなかすいた

 ぱぱのごはんたべたい

 ほかのはいや

 おなかすいた


 ――――――


 とある警察署の一室。

 窓の外からぽつぽつと降る雨の音が聞こえる。


「警部、これを」

 紺色のスーツを着た若い男性が一冊のノートを差し出す。

 警部と呼ばれた年配の男性がそれを読んだ後、項垂れた。

「薬漬けだったのに、それでもこれをか」

「理由はもはやわかりません。母親も既に……ですから」

「ネグレクトで遊び呆け、最後は酔って駅のホームから転落して、頭を強く打ってだったな」

「はい。父親は誰かもわからないらしく、身内は他にいません……あの子にとってはあのゲスが唯一の救い手だったのでしょう」

「……だからといって放っておいたら、第二第三の犠牲者が出ていただろ」

「はい……」

 その後、二人はしばらく口を開かなかったが、




「もし生まれ変わりがあるとするならば、今度はまともな親の元に生まれてほしいものだな」

「そしていつもお腹いっぱい食べてほしいですね……」


 雨の音が聞こえる。

 外からも、部屋の中でも……。

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とある少女の日記より 仁志隆生 @ryuseienbu

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