あそび部屋
尾八原ジュージ
あそび部屋
「夜中は『あそび部屋』に入ったらいかんと言われてたんですが、オレは親の詭弁だと思ってましたね。要は早く寝ろっていう」
遊び部屋というのは、佐久間さんの家にあった子供用のいわゆるプレイルームのことだそうだ。田舎の一軒家なのでスペースには余裕がある。ひと部屋をまるまる子供が遊ぶ用に割いて、おもちゃの多くはその部屋に置き、ほかの部屋が散らかるのを防いでいたようだ。
その部屋には掟があった。「真夜中に入るな」というものである。
あってもなくてもいいような掟だった。子どもたちは夜中には眠っているし、大人たちはそもそもおもちゃ部屋に用がない。破られる気遣いはほぼなかった。
ただ、意味のない掟ではなかったらしい。
「一度だけ破ったことがあって……どうしてもゲームを進めたかったんですよ。当時はスーファミだったけど」
佐久間さんは夜ふかしに備えて昼間や夕方に仮眠をとり、家人が寝静まった真夜中、弟と一緒にこっそり布団を抜け出した。
ひとりだと怖ろしい暗い廊下も、弟と一緒なら心強い。非日常のわくわく感もあって、ふたりでクスクス笑いながらあそび部屋を目指した。辺りに人気がないのを確認すると、部屋の襖をそっと開けた。
部屋いっぱいに、何人もの人が正座して頭を垂れていた。
驚いて弟とふたり、寝室に駆け戻って泣いた。
襖を開けっ放しにしてきてしまったので、ふたりは翌日、侵入未遂に気づいた母親に叱られた。
「夜になるとご先祖様が帰ってくるんよ」
そう説明されたという。
「なんていうか、そんな和やかな雰囲気じゃなかったですけどね」
正座した人々の中に、血のついた包帯を頭に巻いた人や、腕のない人がいたことを、佐久間さんは今でも覚えているそうだ。
その家はのちに不審火で焼けたため、あそび部屋はもう存在しない。
あそび部屋 尾八原ジュージ @zi-yon
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