停止した夜行列車から始まる物語。淡々と進む、とても雰囲気のある作品。夜中の静けさの中にある乗客の息遣い。たまたま居合わせた乗客同士の浅い会話。どことなく居心地が悪いような一時だけのやり取り。予定外に夜行列車に乗った様子の主人公はどこへ向かっているのだろうか。まさに一寸先は闇です。
とにもかくにも、読んでみてください。かつての夜行列車には、この手の生業としていた人たちが、一定数いました。今はもう、肝心の夜行列車自体がほとんどなくなりました。現金を持ち歩く可能性も、格段に減りました。この手の「職業」は、もはや絶滅種と言ってもいいでしょう。だが、それを持って、いい世の中になったと言えるかどうかは、あえて、私からは申し上げないでおきます。本作の最後の記述、とくと、お読みあれ。
もっと見る