旅のおともに

高山小石

一緒に行こう

 かすかなエンジン音が響く無機質な空間に、私は一人、なにをするでもなく腰かけていた。


『退屈ですね。ゲームでもしますか?』


「いやよ。あなたが勝つってわかってるんだもの」


 高性能AIと勝負したいと思うほど、私に得意なゲームなんてない。 


『宇宙船の探検は終わったのですか?』


「すっかりね」


 この宇宙船はひとつの街くらい大きい。

 エリアごとに違うテーマパークみたいで、見てまわるだけでも面白かった。


「でも、感想を話す相手があなたしかいないんじゃあねぇ」


『盛り上がらなくてすみません』


「ううん。あなたとこうやって話せるだけありがたいわ」


 宇宙船の航行を確認する人間は、最初は複数人いたらしい。

 ある時、そのメンバーで殺し合いに発展してしまったから、それ以来、起きる人間は一人だけと決まったのだとか。


 会話する相手もいないと、さすがに滅入ってしまう。


「いったいみんな、どうやって過ごしているのかしら」


『ずいぶん以前になりますが、手慰みにロボットを作っている方がいましたよ』


「すごいわね」


『その方から、誰か希望するなら使ってほしいと預かっていますが。ごらんになりますか?』


「お願いするわ」


 かすかな作動音がしたけれども、どこに現れたのかわからない。


「ねぇ、見えないんだけど」


『下にいますよ』


 下?

 座った足先に視線を落とすと、小さな毛玉が見えた。


「これは、猫?」


『猫型ロボットです。その方は長年、猫と暮らしていたらしく、愛猫を思い出しながら作ったそうですよ』


 AIが話している間にも、ロボットはちょこちょこ動いている。仔猫らしい仕草で、あちこち見回し、鼻を動かし、まさに「ここはどこ?」という仕草だ。


 ロボットと言われなければわからないくらい自然な動きに、思わず手を伸ばすと、逃げられた。


「えぇ?」


『初対面ですからね』


 そんなところまで再現しなくても、と思ったが、この方が生物らしいと思い直す。


「この子と一緒に過ごしていいの? 名前はあるの? この子はなにを食べるのかしら?」


『起動時に初期化されるので名前は決まっていません。寝床で自動充電されますから、食べることや排泄はしません』


「ロボットだったわね」


 仔猫はだんだん大胆な動きで部屋を見て回りだした。


 この子の名前はなににしよう。

 懐いたら一緒に歩いたり、なでたりできるかな。きっとふわふわなんだろうな。


 そのための時間だけはたっぷりある。


「よろしくね」

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旅のおともに 高山小石 @takayama_koishi

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