君の言葉を思い出して、今宵も俺は酒を飲む
飯田太朗
思い出は肴になる
優しいのが寺田くんのいいところだよね!
十九歳はまだ酒を飲んではいけない。
ただ俺の目の前には、ウィスキーがある。
親父の秘蔵品だ。高いやつ、らしい。
グラスに注ぐ。少しの間、琥珀色の液体を眺める。それから一気に呷る。アルコールが、喉を、胸を、何もかも、もちろん思い出も、焼いてくれる。
優しいのが寺田くんのいいところだよね!
いいんだ。いいんだ。君が幸せなら、それでよかったんだ。それが何よりだ。君が幸せなら俺も幸せなんだ。
でも、思い出す。
高田先輩に見せた、あの笑顔を。俺が決して向けられることのないあの笑顔を。眩しかった。かわいかった。この世の何より美しい。いいんだ。俺はあれを作れた。あの笑顔を作ったんだ。俺が作った。俺の作品とも言えるじゃないか。俺の……俺の……。
スケッチブックを取りに部屋に行く。専門は抽象画。鉛筆で描く。
曲線を描く。何度も描く。波を描く。流れを描く。そのどれもが彼女だった。俺は彼女しか描けなくなっていた。
夢を追いかけるってすごいと思う!
スケッチブックを放り投げる。まぁ、そうさ。そう。俺は美大には受かったさ。俺は晴れて芸術を学ぶ身だ。今も学んでいるとも。夢を追いかける。そうだろうな。羨む人も、いるかもしれない。
寺田の絵は上手いなぁ。
彫刻みたいな顔立ち。高田先輩。
高田先輩とあの子を繋げたのが俺だ。あの子に相談されたんだ。高田先輩が好きなんだけど、ってな。助力するしかないじゃないか。俺は君が好きなんだ。君が、何より、俺自身の幸せより、大事で、大切で……。
高田先輩は浪人している。
今年も駄目だったらしい。つまりは仮に来年受かったとしても俺の後輩だ。
多分やさぐれているのだろう。
あの子から相談を受ける。最近彼が冷たい。彼がひどい。
まぁ、多分、乗り換えようと、しているんだろうな。
優しいのが寺田くんのいいところだよね!
間抜けの間違いだろ。
思い出を肴に酒を飲む。あの頃の彼女はもういない。
君の言葉を思い出して、今宵も俺は酒を飲む 飯田太朗 @taroIda
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