ブラッドオレンジ

秋待諷月

ブラッドオレンジ

 ブラッドオレンジのお裾分けをいただいた。ジュースならば何度か飲んだことがあるが、生のものを見るのは初めてだった。

 標準的なミカンより若干大きく、形状はころりとして真球に近い。色は明るく優しい橙で、どことなく愛らしい雰囲気がある。

 皮は頑張れば素手で剥けないこともなさそうだったが、それなりには厚くて硬い。包丁で薄く切れ目を入れてから、破片を剥がすようにして中身を丸ごと取り出した。果肉は薄皮ごと食べられると聞いていたので、房ごとに分けやすいよう、最初に実をべりべりと二つに割く。

 そこでぎょっとした。

 ジュースの色のイメージからなんとなく、ピンクグレープフルーツのような中身を想像していたのだが、引きつれ破れた薄皮から覗く果肉はミカンと同じような橙色だった。ところが、その実と皮の間から滲み出してくる果汁の色は、ピンクがかった赤なのである。

 果汁は一房一房の隅や、果肉の筋の上にも僅かに溜まって固まっており、その部分だけ赤黒く、毒々しく目立って見えている。

 黄味を帯びた白い薄皮の下に透ける橙と赤は、擦りむいて血が滲んだ人体の患部を彷彿とさせて、思いのほかグロテスクだった。

 なるほど、これが名の由来かと妙に納得させられたが、かと言って、食欲が減退するほどでもない。

 一房を剥ぎ取って、薄紅色の汁が滴り落ちる前に口に含み、ぎゅっと噛み締めた。爽やかな酸味と程よい甘味が口いっぱいに広がる。

 同時に、私の中で誰かが言った。


「いたいよ」






 Fin.

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ブラッドオレンジ 秋待諷月 @akimachi_f

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