だって仕方ないよね
げこげこ天秤
だって仕方ないよね
嘘をつかれた。
だが驚くことはない。
嗚呼、笑ってしまうよ。君の軽薄さに。君の浅はかさに。蒙昧無知で無教養。やはり、君は矮小で薄汚い存在だ。いつだってそうだ。君は人を陥れることしか考えていない。そんな君を、私は敢えて称賛しよう。なぜなら君は、他人を騙し、利用し、切り捨て、踏みにじる方法に長けているからだ。
天才だって?
頭脳明晰だって?
違う違う。
知能犯だ。
君は狡猾な鼠だ。
おめでとう。この勝負は君の勝ちだ。明日、夜明けとともに君は勝者になる。他人の頭を踏みつけて、光照らす大地に降り立つ姿は目に浮かぶよ。君は勝者だ。そして、私は敗北者となる。そうさ、この世界は残酷で弱肉強食。騙される方が悪い。騙される方が馬鹿なんだから。私は鈍感で、愚鈍で、他人を簡単に信じた真正の阿呆として、人類史に名を刻むことになるだろう。
正直、このまま矮小な君を殺すこともできる。喉笛に牙を突き立て、藻掻き、喘ぎ、赦しと助けを乞いながら死にゆく様を、恍惚と眺めながら、歓喜の中で嚙み殺すこともできる。今すぐ!! 此処でだ!!
だが……。
それでは面白くない。
なんたって、君は人気者だ。小さくて可愛い。皆そう言っている――本音ではどう思っているかは知らないけれども。とにかく、世論は君の味方だ。此処で君を殺せば、私は世紀の犯罪者だ。後ろ指をさされるくらいならいいだろう。市中を引きずり回されて、耐え難い苦痛と恥辱を受けて、その生涯は石を投げられながら生きることになるのだろう。まだ私だけで終わるだけならいい。だがきっと、子も、孫も、曾孫も、玄孫も、来孫も……子々孫々に至るまで赦しを得られることは無いだろう。犯した罪に対して重すぎる罰だ。
ならば、私は敢えて敗者の汚名を着よう。
そうだ。
君の計画に乗ろう。
――君に手を貸そう。
だが、報いは受けてもらう。
既に笑いが止まらないよ。なぜなら、君は勝利の瞬間から、勝利がいかに空虚で破滅的な結果を生むのかを知ることになるのだから。
君は私を騙した。
この事実が重要なんだ。
恨まれて当然だろう? 憎まれて当然だろう? 今度は君が後ろ指を指される番だ。君にとっては不本意で理不尽なことかもしれないが、皆からは「だって仕方ないよね」と言われることになる。犯した罪を、償うのは君なんだ。
そして、裁くのは私だ!! 私の家族だ!! 私の親類だ!! 嗚呼、君だけじゃない。君の子々孫々に至るまで同じ目に遭うことになる。君の家族も、君の友人も、君の知らない君の同族もそうだ!!
私が裁く。
私たちが裁く。
世界が終わるまで。
この怨嗟を断ち切ることは誰にもできない。
明日、君は勝者になる。だが明後日からは、私に怯える矮小な者に戻る。逃げ足だけ取り柄の鼠だ。昼も夜も関係ない。君たちの安寧は終わり、世界は恐怖に包まれる。全て君の愚かな行いのせいだ。だが悲観することは無い。なんせ君は勝者だ。
――君の行いが招いた帰結だ。
さぁ、裁定を始めよう。
被告の君はもはや醜い害獣。
害獣は駆逐しなければならない。
* * * * *
私はネコ。
君はネズミ。そして、一番乗りで神様の元へたどり着く。その次は、ウシ、トラ、ウサギと続いて行く。君は伝説になる。
私はネコ。
翌日に神様の元へたどり着き、醜態をさらす。
こうして、恨んだネコはネズミを追いかけるようになる。だが、人々が口にする言葉に君への哀れみは無い。あったとしても少数派。大半はこう言うだろう。
「だって仕方ないよね」
だって仕方ないよね げこげこ天秤 @libra496
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