恨みの即身仏

北比良南

恨みの即身仏は仲間を求める

 某県S村で半年前に行方不明になった大学のオカルト研究部の男女四人のミイラ化した死体が数日前に発見された。

 このショッキングなニュースは日本中を駆け巡る。

 

 四人の男女の名前は、吉田晃一。長瀬博也。国仲黄熊くになかぷう。権俵米子の四人で年齢は全員十九歳。


 彼らはオカルト研究部に所属しており通称オカ研の活動の一環で半年前に某県S村の即身仏を見に来ていた。


 

 ――時は遡り半年前の事


 まだ行方不明になる前の四人は、夏の暑い日に数年前に即身仏が発見されたという場所へと向かっていた。

 その場所は山の中腹にあり、歩いて数時間かかる場所であった。


「あっちぃ……おーい! 博也まだそのミイラのある場所にはつかないのか?」

「おい晃一ミイラじゃない、即身仏だ」

「どうでもいいけど、あーし晃一と遊びに行きたいんだけど?」

「ちょっとプーそういうのは即身仏見終わってからにしてくんない?」

「あーあー米っちはうっさいなぁ」

「おっ見えてきたぞ、あの洞窟が即身仏が見つかった洞窟らしい」

「あれ? 入口のところにお爺さんがいるね」

「即身仏はっけーん! キャハハ」

「プーあんた失礼だよ」


 目的地の場所に先客がおり、その先客は四人に気付くと近づいてきて話しかけてきた。

 先客は年の頃は七十位のお爺さんだった。


「おや、君達も即身仏を見に来たのかい?」

「そうです」

「そうだよ」

「あーしはあんまり興味ない」

「そうです」

「そうかそうか、ところで君達は即身仏ってどんなのか知ってるかの?」

「ミイラ」

「平和を願い自ら苦行でミイラ化した僧」

「死体」

「ミイラ化したお坊さん?」


 それを聞くとお爺さんは笑いながら、頷いていた。


「ほっほっほっまあ合ってるっちゃ合っておるの」

「えっと何か違うんですか?」

「まあよく言われるのが平和を願い自ら苦行を課しミイラ化したっていうのが一般的な即身仏だと言われておるの」

「他にもなにかあるんですか?」


 興味を持ったのか博也がお爺さんに話しかける。


「あーあ、まーた出たよ。博っちのオカルト好奇心」

「おーい、博也俺ら先に洞窟に行ってるぞ」

「あぁ、少しこのお爺さんに話を聞いたら追いかけるよ」

「じゃあ博也私たちは先に行くね」


 先に洞窟に行こうとする三人にお爺さんはおかしな事を口にし始めた。


「あんたら、即身仏を見に行くのなら食べ物の類は一切持ってっちゃならん」

「はぁ? そんなの、あーしらの勝手っしょ放っといてくんない?」

「プーあんた少しは大人しく出来ないの?」

「おいさっさと行こうぜ」

「はいはーい! 晃一待って」

「ちょ、ちょっと二人共待ってよ」

「はぁ……わしは忠告したからな」

「すいません。うるさくて……」


 お爺さんは少し悲しそうな顔をして三人を見送ると博也に即身仏のもう一つの話をし始めた。


「さて、即身仏なんじゃがな君はあれが、平和の為に自らと思うかね?」

「えっとそれはどういう……」

「即身仏に自分からなる者もおれば、無理矢理に即身仏にされた人間もおるという事じゃよ。おかしいと思わないかね? そんな苦行を自分に課す人間などそうそうおるじゃろうか?」


 なるほど、言われてみれば確かにそうだよな……


「つまり、生きたまま棺に入るのではなく無理やり入れられ、土中に自らではなく埋められたと?」

「簡単に言えばそうじゃの、でな、そういった無理矢理に即身仏にさせられた仏様には恨みの怨念が纏わり付く物なんじゃよ」

「恨みの怨念ですか?」

「例えば無理矢理に埋められた人間ってのは埋められる覚悟がないわけじゃろ? そうなれば当然空腹に陥るわけじゃが、そこには食べ物は無いとなったら」

「当然埋めた人間を恨みますね、食べ物も渇望するでしょうし」

「そういう事じゃよ。因みにのここの即身仏は自ら苦行を課した即身仏ではなく、無理矢理に即身仏にされた仏様じゃな」


 お爺さんの話を聞いて少し背筋に冷たい物が流れる、博也の知っている即身仏は自ら即身仏になった話しか知らなかったからだ。


「うわあああああああああああああああ!」

「きゃあああああああああああ!」

「いやぁああああああ!」


 突然洞窟の方から、三人の悲鳴が聞こえた。


「あやつら、食べ物を持って行ってしまったな、忠告したのに愚かな事じゃ……」

「みんな!」

「行くのは止めておきなさい、良い事にはならん」

「放っておけるわけないだろ」

「……」


 お爺さんは悲しそうな顔で博也が行くのを見送った。


「おい! みんな無事か?」


 博也が呼びかけても三人の声はない、博也は三人を探し奥に進んで行くが何処にも三人の姿が見えない。

 どんどん奥へと進んで行き一番の奥の即身仏の置かれている広間の様な場所へと辿り着くがそこにも三人はいない、あるのはただ即身仏のみ……

 ここまで一本道で身を隠す場所もないのに三人は何処にもいない。


「みんな一体どこに……」


 周りに誰もおらず即身仏がポツンと置かれてる部屋は少し気味が悪く、自然と即身仏へと目が向く……

 その目が向いた即身仏をよく見ると何やら見覚えのある顔に見えてきた。


 そう……先程の老人を干からびさせると即身仏の仏様に見えるのだ。


「残念じゃが君もここに来てしまったのじゃな」

「ひっ!」


 それは即身仏からの声だった。

 その声は即身仏の物でもあったが、先程まで話していたお爺さんの声でもあった。


「この抑えられぬ恨みの感情の犠牲者がまた増えてしもうたか、そうならぬ為に忠告しておるのに……せめてこの若者だけでも助けたかったんじゃがの……」

「ぎゃあああああああああああああああ!」


 この日以降の四人の足取りは不明となり、半年後に同じ場所で発見されるわけだが発見された四人に何が起きたのかは不明のままだった。

 ただ分かる事は、発見された四人は即身仏の様にミイラ化した状態で発見されたという事だけだった……

 発見された四人の顔は、それはそれは苦悶に満ちた顔だったそうな……

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