アイツはすごい奴だった

闇谷 紅

やりやがったわ、アイツ

「宿題、どうしたよ?」


 いつもなら、武士の情けで聞くこともなかったことを口にした。朝のことだ。

 今日は冬休み明けの始業式の日で、モノによっては冬休みの宿題を提出しなければいけない日でもあった。まぁ、俺はいつもコツコツやって間に合わせているので問題はないが、ギリギリまで手を付けないタイプである幼馴染のコイツは死人と間違うような表情をしているのがいつものパターンだったのだ。


「んー?」


 それがおかしい、今回は鼻歌でも流しそうな上機嫌で、一仕事終えましたと言わんがばかりの達成感に溢れていた。


「地球って今日終わるんだっけ?」


 そう疑ってもおかしくないくらいの緊急事態だ。何があったと頭の中の俺が動揺する。


「失礼しちゃうな! ちゃんとやったよ、マブの手も借りちゃったけど」

「へ?」


 だが直後に憤然とした幼馴染の言に俺は耳を疑った。ちゃんとやったよなどと言う寝言は聞き流すとして、その後ろが問題だ。


「マブってお前んとこの猫だよな?」


 三毛猫で、マーブル模様っぽいというコイツの感想が名前の由来でもあるが、それは猫だ。


「そうだよ、ほら」


 言いつつ鞄を開けた幼馴染が俺に見せたのは、猫の手形だらけの問題集。きちんと回答を書く欄に一つ一つ肉球付きの手形が押してあった。


「いや、ほらじゃないだろうよ」


 猫だって、生き物だ。飼い主の都合通りには動いてくれない。猫の足のスタンプ押させる手間暇を鑑みたら、普通は問題を解いた方がマシだ。とりあえず考えてみましたと数式書いて適当な答えでも書いた方が労力もかからない、と思う。


「ふふふ、これで宿題未提出の罰とはおさらばなのだよ」

「いや、本当にそう思えるならある意味スゴイな」


 尚、当然の如くコイツが学校で先生に怒られたのはきっと言うまでもないことだろう。俺が先生だとしても怒ってたし。


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アイツはすごい奴だった 闇谷 紅 @yamitanikou

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