神の一手

lager

猫の手を借りた結果

「ふむぅ」

「お。どうした、降参か? え?」

「黙っとれぃ」


 場は膠着していた。

 将棋盤をはさみ、儂の長年の好敵手がにやにやとこちらの顔を覗き込んでくる。


 まったく、憎らしいジジイだ。

 状況を変える一手は思いつくが、同時に奴がどう返すかまで想像がついてしまい、なかなか踏み出せない。


 こいつと将棋を指すのも、もう何年になるだろう。お互いあちこちにガタがきているが、駒を持つくらいのことはまだまだ出来る。

 憎らしいジジイだか、こいつと向き合ってる時間が、この老いた体に僅かばかりの活力をくれるのだ。

 この時間があることが、儂にとってはそれだけでありがたい。


 だが、勝てるものなら勝ちたいのも事実。

 さてどうしたものか。


 その時。


「にゃん」


 か細い声を上げて、小さな猫が儂らの座す縁側に登ってきた。


「なんじゃ。お前猫なんて飼ってたのか」

「いや、野良じゃよ。たまに遊びにくる」

「おい。危ないぞ。駒に触らせるな」

「あ」

「あ」


 気づいたときには、猫の手が銀の駒を動かしていた。


「これ。イタズラしてはいか……ん?」


 いや。

 これ、いいんじゃないか?

 定石からは外れるが、悪くないんじゃないか?


「おい。早く戻せ」

「いや。続行じゃ」

「は?」



 一時間後。



「無効じゃ!」

「何でじゃ!」

「貴様猫の手など借りおって恥ずかしくないのか!」

「何を言う。儂は最初からああするつもりじゃった」

「嘘をつけ!」

「嘘じゃないわ! 素直に負けを認めんか!」

「何を!」

「なんじゃ!」



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