概要
あたしは大丈夫だから……。
『私が死んだら、隠れ里にお行き』
そう言い残した母の言葉に従い、森を歩く少女が居た。
少女は赤子の頃から共に育った、一頭の黒豹を連れていた。
「もう少しだよ、頑張って」
気遣うように声を掛けながら黒豹を連れ歩く少女。
少女は只人ではなかった。
赤い髪を持つ、人々に敬われまた恐れられる、魔女であった。
「お母さんの故郷って、どんなとこなんだろうね?」
殊更に明るく振る舞い、野生のそれにしては長く生きている黒豹を元気付けるように。鉈を振るい、黒豹が歩き易いように。
「着いたらすぐに先生を見付けて、早く一人前になるからねっ」
一人の魔女の少女と、一頭の黒豹は。
ひたすらに、深い森の中を進んでいた――――