第6話 運命が動き出す③
あ…眠い…私の杖が鳴っている…
「もう…今何時…?まだ6時じゃん…誰?こんな朝に電話してくるの…」
ベットの側にあった杖を寝ぼけながら手に取って電話をとった。
「はい…」
「おい!シェリア!ティムだよ!お前窓の外見てみたか?月がすごいことになってるぞ!」
「月…?」
寝ぼけながら窓を開けた。すると…
「え…えええぇーー?!なにこれーー!」
眠気が一瞬で吹っ飛んだ。
真っ赤な大きな月が空に出ていた。飲み込まれそうになるほどの存在感だった。
「俺も最初見た時すげー驚いたよ!」
「これが200年に一度に出るサンクトゥスムーン!!」
「今日は良いもんが見れたな!今日は4時から試験だよな。今日も広場で待ち合わせして一緒に試験会場まで行こう。」
「わかった!じゃあまたあとでね!」
私は杖をベットに置いた。
あれ…私寝起きで髪の毛もボサボサじゃん!
ティムに見られちゃった…まぁ、いっか…
身支度始めようかな…
午前中は実技試験の復習や最終確認をした。
すると、おばあちゃんが部屋に入ってきた。
「シェリア、ほうきの飛行テストで怪我するんじゃないよ。」
「おばあちゃん!うん、ありがとう。私頑張るね。」
「それにしても…この月…魔力が半端ないね…」
窓の向こうにある大きな赤い月を眺めていた。
「そうだね…なんか飲み込まれそう…」
「何もないと良いけどね…」
おばあちゃんは少し厳しい顔をしていた。
「あ、言い忘れてたんだけど、小学生の時によく遊んでたティム・フォーゲルって男の子覚えてる?ティムと再会したんだ!そしてティムもリュセール魔法高等学校を受験するんだって!絶対に受かりたいんだよね。」
「あ…懐かしい名前だね、彼もリュセールに戻ってきたんだね。知り合いがいることは良いことだ、頑張りな。」
「うん!」
午後になりシェリアはお店の前にテーブルと椅子を出して月を眺めながら復習をすることにした。
【オブイェクト】
物体を出す魔法を使い、椅子とテーブルを出した。今日は昨日の夜と違い、月を見ようとたくさんの人が椅子を出して眺めていた。
「よし!疲労回復や体力の回復に効くポーションでも作ろう。試験に持っていこうかな。」
アグニシュカ王国には各地に魔力のこもった果実や植物が存在する。それらを使い生成することでポーションができる。
「この実とこの植物を刻んで混ぜて、あとは…」
【プフランツェリンゲン】
杖に力を込めて唱えた。すると刻んだ実と植物は液体になり、ピンク色の液体に変わった。
「できた!これで試験に行く準備は万端かな!」
その時、アンヌさんとアリアンヌちゃんが通りがかった。
「あ、アンヌさん、アリアンヌちゃん、こんにちは!」
「あら?シェリアちゃん!」
「シェリアお姉ちゃん!」
「今日はお休みですか?」
「私は仕事があったけどサンクトゥスムーンを見たかったから休んだの。アリアンヌも学校休んだわ。」
「そうだったんですね」
「今日はこれから試験でしょう?頑張ってね、応援しているわ。」
「ありがとうございます!」
「何時からなの?」
「4時からです!なのでもうそろそろ行こうかなと思ってました。」
「そうね、もう3時になるものね、いってらっしゃい。」
「はい!行ってきます!アリアンヌちゃんもまたね!」
「お姉ちゃんバイバイ」
椅子とテーブルをしまい、ポーションをポケットに入れて、ティムと待ち合わせの広場に向かった。
マーセル広場と呼ばれる場所は街の中心にあり、人々はよく待ち合わせの場所として使っていたり、広場の噴水で子供たちが遊んでいたりする。
あれ…?みんなが噴水を囲んでる…
なんか噴水の水の色が青い…!
急いで近寄ってみた。見間違いではなく噴水の水が青くなっていた。そこにティムもいた。
「あ!ティム!この噴水の色どうなってるの?!」
「俺も来たばかりなんだ…水だけじゃない…炎魔法使ってみろ。」
「え…?」そう言われて魔法を使った。
【フランメ】
手のひらに赤い炎を出したはずだった。
しかし…
「なにこれ?!炎が青い?!」
「今各地で奇妙なことが起きてるらしい。」
「もしかして…この月のせい…?」
「月の魔力が強すぎて魔法に影響が出ていると新聞に載っていた。」
「私新聞見てなかった…今日の試験大丈夫かな?」
「一応中止になった知らせは来てないから、とりあえず試験会場に行こう!」
「そうだね。行こう!」
私たちは学校に向かって、ほうきで飛んでいくことにした。
試験会場に着いたら受験生とその保護者で、ごったがえしていた。3時15分になっていた。
「相変わらずの人混みだな…」
ティムはため息をついていた。
「月の魔力で色々なことが起こっているのに試験は行うんだね…」
「なんか不安になってきたな…」
話していると試験官が出てきた。
「受験生の皆さんは校舎の中へ!サンクトゥスムーンの影響を受けないように学校に結界を張りました。ですのでご安心ください!」
私たちは顔を見合わせてた。
私は不安でティムの顔を見たが、ティムは微笑んでいた。大丈夫だよ。と言っているみたいだった。
試験が行われる講堂に向かう途中でヨゼフィーンとハンナの姿が目に入った。少し前の方を2人で歩いていた。
いつかあの2人のようにお互いに笑い合える友達と出会いたい。
「どうした?あと2人は知り合いか?」
「中学の同級生だよ。仲良しで羨ましいなって思って…いつかあんな友達が欲しい。」
「この世界は広い。どこかに友達になってくれる人は必ずいるよ。」
「…!そう…信じたいな…」
ティムとは受験する学科が違うので、試験が終わったらまた正門で待ち合わせする約束をして別れた。
魔道医術科の試験会場は思っていたよりも広くたくさんの受験生がいた。シェリアの席は窓側でサンクトゥスムーンが鮮明に見えた。
赤い月の光を浴びてなんだか力がみなぎってくる感じがした。
最初は魔法薬の生成の試験だった為、フラスコやスポイト、ビーカーなどの実験器具が机の上に並べられていた。
シェリアはポケットにしまってあった魔法石を取り出して握りしめた。
どうか…試験がうまくいきますように…
試験が終わりチャイムが鳴っている。
シェリアは試験会場から待ち合わせの正門まで向かった。夜の6時になっていた。
巨大な赤い月が出ていたため、外は明るかった。
そういえばティムは夜ご飯どうするんだろう…最後の飛行テストは8時からか…
そんなことを考えているとティムが学校から出てきた。
「シェリア、待たせてごめん。」
「全然待ってないよ。お疲れ様。」
お互いに街へと歩き出した。
「お前もな。お腹すいたろ?お店でご飯にしよう。」
「本当?!ティムは友達や家族と食べるのかと思ってたから…」
「俺は一人でリュセールの街に来たんだ。学校の寮に入るつもりだよ。」
「そうなの⁈じゃあ今はどこで寝泊まりしてるの?」
「親戚の人のところで寝泊まりしてるんだ。」
知らなかった…てっきり家族で引っ越してきたのだとばかり考えてた…私はティムの事何も知らないな…
「お、あそこのお店はどうだ?食べたいものあるか?」
「なんでもいいよ。そこにしよう。」
私たちは外のテラス席に座って注文した。
私はシュニッツェルとプレッツェルとジュースを頼んだ。
ティムはパスタとジュースを頼んでいた。
「美味いな!この店にしてよかったよ。」
「そうだね。試験の疲れが癒えていくね。」
「結構魔力を使ったのに疲れなかったよ。あの月の影響だな、多分。」
「確かに私もあんまり疲れなかった…」
「8時からの飛行テストも大丈夫そうだな」
「最下位にならないようにしないと…」
「それは大丈夫だろ。ところで…」
「なに??どうかしたの?」
「知の妖精…リラだっけ?彼女はピアスの姿になってお前に付いてきてるんだな」
「いや…あれ以来、元の姿に戻らなくなっちゃって…ピアスを取ろうとしても取れなくて…」
「そうだったのか⁈それは心配だな…何か会いたくない事情があるとかか…?」
「わかんない…受験が終わったら本を読んで調べてみるよ。元に戻す方法とか。」
「じゃあ、その時は俺も手伝うよ。」
食事をしながら楽しい会話を楽しんだ。
同世代の人と食事をするのは久しぶりだった。あっという間に時間が過ぎていった。
「あ、もう7時半か。そろそろ試験会場へ向かおうか。」
「そうだね…って…あれ…?月が…」
「月…?」ティムは空を見上げた。
「うわ…!夕方よりもさらに大きくなってないか?!」
「うん…なんでだろう…魔力が凄い…」
「なんかすげー力が湧いてきてるぜ…」
「長距離を飛ぶには絶好の日だね!」
私たちはそんなことを話しながら受験会場へ向かった。
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