後日談:お菓子のように甘い誘惑は程々に
「ハッピーハロウィーン! さぁ、可愛らしい皆、お菓子の準備は出来てるわよー!」
「そのお菓子を作ったのは私ですが」
「やだ、理々夢ちゃんったら! 細かいことは気にしないの! 総帥命令よ、ハロウィンを盛り上げるわよー!」
今日は十月三十一日、つまりはハロウィンである。
そんな祝祭に乗じて、今日も我が家は相良さんの積極的な要望でホームパーティーが決行されていた。
尚、提案者である相良さんは準備はほぼ何もしていない。私たちが袋詰めしたお菓子をさも自分の成果のように両手いっぱいに掲げている。
そんな相良さんの装いも普段とは違う。
髪はオールバックに掻き上げて、普段よりも厚めの化粧をした吸血鬼の姿だ。
黙っていれば美女が男装をしている見目麗しい姿だけど、いつも以上にやかましさが上がっているので残念臭が漂っている。
ハロウィンなら仮装! ということで、私も含め全員が仮装をしている。
私は魔女なので、黒いローブと三角帽子を被っているだけ。
「……一番年上が、一番はしゃいでるね」
「まぁまぁ」
ホームパーティーの準備で疲れたのか、ソファーに座って軽くぐったりしている御嘉は黒いネコミミと尻尾をつけられた黒いワンピース姿だ。
気怠げな姿がどこか猫のように見えて、ちょっとだけ笑ってしまう。
そして三人娘とリュコス。
真珠さんは包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ。
そんな真珠さんを抱きかかえるように抱き締めている文恵さんはオオカミの耳と尻尾をつけている。
文恵さんとは逆隣にはリュコスがかぼちゃのかぶり物をつけた状態でぴったりと真珠さんにくっついている。
瑪衣さんはメイド姿ではあるものの、顔には特殊メイクで継ぎ接ぎが描かれているフランケンシュタイン。
全員の衣装は相良さんが用意したものだったけれど、この装いの準備をしている時から相良さんはテンションが高かった。
そのせいでお菓子や料理を作るのは私と御嘉に任された訳だけれど。
「ほらほら、お菓子があるわよ! まずは誰が欲しいのかしら?」
「相良さん、微妙に趣旨を間違えてませんか?」
「盛り上がれば良いじゃない! じゃあ、お疲れの御嘉ちゃんからどうぞ? ほら、合言葉言ってよー!」
ソファーでぐったりしている御嘉に抱きついて、頬ずりをする相良さん。
ぎゅうぎゅうに抱き締められ、暑苦しいまでに密着してくる相良さんに御嘉の目が据わった。
「トリックオアトリート……」
「はーい! じゃあ、好きなのを一つどうぞ!」
相良さんが差し出した、私と御嘉で用意したお菓子袋。
それを御嘉は奪い取るようにして全てを強奪していった。
あっという間に自分の手からなくなったお菓子に相良さんは目をぱちくりとさせる。
「そこの三人娘、今なら浮かれたダメ大人にイタズラし放題よ。やれ」
「えっ、ちょっ」
「なるほど。では、ご主人様。トリックオアトリート?」
「真珠の分も含めて、トリックオアトリート!」
「ワオオンンッ!」
「お菓子がないなら?」
「イタズラしましょう」
「イタズラですね?」
「ワォオオオオンッ!!」
「ぬぁーッ! み、御嘉ちゃん、よくもそんな卑怯な真似をーッ!」
イタズラという言葉に反応して真っ先に飛びかかったリュコスに押し潰され、瑪衣さんと文恵さんが手足を押さえ込んでくすぐり始める。
顔をベロベロと舐められ、全身をくすぐられてゲラゲラ笑っている相良さん。黙っていれば良い見た目もこれで台無しである。
そんな光景を文恵さんに持たされたのか、スマホのカメラで撮影している真珠さん。
ギャーギャーと騒ぐ人たちを見て、御嘉は満足げに息を吐きながらお菓子を口に運んだ。
「悪は滅びた」
「すぐ蘇りますよ、その悪」
* * *
「はー、騒いだねー」
騒いで、食べて、飲んで。そんな楽しい時間も過ぎれば解散の時間が来るというもの。
遊び疲れたリュコスを引き摺り、文恵さんと真珠さんは自分の部屋に戻っていった。
相良さんはこれから晩酌だそうで、瑪衣さんを付き合わせて飲むそうだ。
私と御嘉も自室に戻り、ソファーに並んで座りながらのんびりしている。
「もう少し相良さんも準備を手伝ってくれればいいものを……」
「そういうところ、王様気質ですからね。出来ない訳じゃないんですけど」
「……まぁ、楽しかったからいいかな」
穏やかな微笑を浮かべて笑う御嘉。そんな御嘉の頭の上にはまだネコミミがついたままだ。
それを見ると、なんとなく私は御嘉の顎の下に指を添えたくなった。
「うにゃ」
顎の下をくすぐるように触れると、御嘉が思わずと言うように声を漏らした。
そして、すぐにハッとしてギロリと私を睨み付けてきた。じわじわと頬が赤く染まっていくのがよく見える。
「……何するのさ」
「いえ、なんとなく」
「イタズラしたいなら、ちゃんと合言葉を言うべきじゃないの?」
「……トリックオアトリート?」
私がそう言うと、御嘉はポケットに入れていたお菓子の袋を取り出した。
総取りした後で皆に配っていたけれど、自分の分を残してたんだろう。
そう思っていると、御嘉がクッキーを咥えて私に顔を近づけてきた。
「トリート?」
クッキーを咥えたまま、イタズラっぽく笑ってそう言った。
その仕草にきゅうっと胸が締め付けられた。絞り出されるように愛おしさが込み上げて来る。
そのまま御嘉の唇ごとクッキーを頂いて、衝動のままに深く口付ける。暫く堪能した後、互いに息継ぎをするために唇を離した。
「……これはトリックの間違いでは? いえ、むしろトラップ……?」
「えへへ」
唇を拭いながら得意げに微笑む御嘉。その表情にしてやられたという思いが湧いてくる。
同時にスイッチも入った。この可愛らしい黒猫、どうしてくれましょうか?
「……トリックオアトリート」
「え?」
「もっとください、御嘉」
「……もうお菓子が残り少ないけれど?」
「なくなったらイタズラですね」
「悪い魔女さんは、どんなイタズラをするつもりなのかな?」
「知りたいなら、幾らでも教えてあげますよ」
「っ、どこ触るの……! ちょ、気が早い、まだお菓子あるから!」
抗議の声も呑み込んで、お菓子も添えた甘い貴方を頂いてしまおう。
だから可愛い黒猫さん、今日は寝られないと思ってくださいね?
悪の組織の幹部ですが悪堕ちした魔法少女に組織が乗っ取られそうです! 鴉ぴえろ @piero_bbt
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