第2話 ミルクキャンディ、ポニーテール、ぽつり。
「最近どう? 順調?」
学校帰り。日の落ちかけた道で、彼女は白い息を吐きながら問うた。
もう数日もすれば年が明ける。今日は学校で開かれる自習会の最後の日だった。入試は目前。クラスメイトとの会話はめっきり減った。
そういえば、席が離れている彼女と話をするのは久しぶりな気がする。
「もう少し数学の時間配分を見直したいな。そっちは? 今日担任に呼ばれてたろ」
彼女が入学当初から優秀なのは周知の事実だ。普段の授業での発言も明快だった。
「あはは、全然だよ。行きたいところ、科目絞れないから気が抜けないな」
首にかけたイヤホンをいじりながら答える彼女を見て、ふと物足りなさを感じた。理由に気づいて声を上げる。
「髪、下ろしてるんだ」
ぽつりとつぶやいたそれにも、彼女は律儀にも答えてくれた。
「もう寒いからね、首とか。校内じゃマフラーも巻けないし」
そうと返事をして無言になる。
彼女のトレードマークはポニーテールだった。いつもきちっと結んでいたのを思い出す。
しばらく会話もなく歩き、分かれ道まで来た。彼女はここで違う方へ曲がるのを知っている。
足を止める。何か言うべきか。何を言おう。久しぶりなせいか、うまく会話を切り出せない。
下手な挨拶が口をついて出かけた時、彼女の方が先に口を開いた。
「手、出して」
「え? ああ」
そっと何かを握らせ、そのまま、黄色い手袋が俺の手を包みこむ。
手袋越しでも暖かい気がする。のは、急激に俺の心臓が身体中に血液を回しているからだ。
驚いて顔を見ると、彼女は笑っていた。いたずらを仕掛けるようなその顔に、結局伝えられなかった気持ちが思わず出そうになる。
「もう、寒いから。気を付けてね。声少し枯れてるかも」
惜しげもなく手ははなされ、くるりと彼女は道を曲がる。
「じゃあね。お互いがんばろーね」
俺の方を振り向いて手を振る。振り返すと満足げに笑い、イヤホンを両耳にはめて歩いて行った。
白い包み紙のミルクキャンディを握ったまま、だんだんと小さくなっていく尾のない後ろ姿をしばらく見つめた。
ひとつぶの物語 天音 @kakudake24
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