世間知らずの八十八歳

浅葱

世間知らずの八十八歳

 八十八歳になったらお祝いをしてもらえると聞いた。

 それをわくわくして待っていたのに、誰もお祝いをしてくれない。二日経っても三日経っても、誰もこない。どういうことかと社から顔を出したけど、やっぱり誰も来る気配はなかった。

 山の神様と崇められて八十八年経ったけど、そういえばここ十年ほどは誰も来ていない。

 ああ、そうか。

 気づいた。

 自分を崇める者たちはどうやらいなくなってしまったらしい。そりゃあ八十八年経ったからって誰もお祝いなんてしてくれないはずだ。

 ま、いいかと思った。

 でもちょっと自己主張したくなったから、


「わしは八十八歳じゃー!」


 と叫んでみた。

 ちょっとすっきりした。そういえば八十八歳でお祝いをしてもらえるのは人間だった。自分は人間ではないから、誰もお祝いなんてしてくれないのだ。

 だけど、次の日のことだった。

 社の前に松ぼっくりとかどんぐりとかが置かれていた。


「なんじゃあこれは」


 なにかの思いが宿っていたから、松ぼっくりを食べた。

”八十八歳おめでとう”

 そんな思いがこもっていた。

 なにかが自分の思いを聞き届けたらしい。にんまりした。

 どんぐりを食べたら、この山の中ほどで拾われたものだとわかった。

 ああありがたいなぁありがたいなぁ。

 八十八歳がめでたいのではない。

 こうして誰かが気づいて、神に思いをくれるのがめでたいのだ。


「お前のことはずーっと守ってやろうなあ」


 どんぐりをくれた主が誰かは知らない。でもどんぐりを食べたことで思いは伝わったはずだ。

 これで自分はまだ神としての形を保てるだろう。どんぐりをくれた主が自分を覚えている限り、自分は神であり続けるだろう。


「うむ、素晴らしい祝いじゃ」


 そう呟いて眠った。



「どういうことじゃこれは……」

「ずーっと守ってくれると約束したではありませんか?」


 三年後、社の前に供えられた白い衣裳を着た娘を見て途方に暮れた。

 娘は自分の嫁になりにきたという。

 自分に”おめでとう”の思いを届けてくれたのは、この娘だったらしい。確かにこの娘だと神の感覚が教えている。そしてこの娘は自分に好意を持っていることもわかった。

 頭を掻いた。


「わしは九十一歳じゃがのぅ」

「そんな風には見えませんし、神様って長生きするのではありませんか?」

「うむ……まぁ信仰さえあればいくらでも……?」

「では私が信じますので、ずっと共に生きてくださいませ」

「……わかった」


 八十八歳だと主張したら、三年後にかわいい嫁がきた。

 まぁ、いいかと神は思ったのだった。



おしまい。


祝いを寄こせと言ったら三年後に嫁が来た。

ずっとらぶらぶー(ぉぃ

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世間知らずの八十八歳 浅葱 @asagi

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