【KAC20225】88歳のクラス会

リュウ

第1話88歳のクラス会

<寿中学校のクラス会のお知らせ>

 メールが届いた。

 中学校を卒業したのが、15歳だから……。

 私は、今年の3月29日で、えーと……。

 88歳。

 88ってってことは、米寿。

 末広がりで縁起が良い”八”が二つ重なる、とても目出度い年。

 88か……。

 こんな歳になってしまった。

 88なら、中学校までを五回経験できるな。

 ちょっと、可笑しくなって笑ってしまった。


 クラス会だって?

 何人生きているのだろうか?

 ネットで検索すると生存率29%。1クラス45人なら、13人ってとこか。

 と、考えている時に電話が入った。出てみると、元気な声が耳に飛び込んできた。

「私、ササキと申しますが、タカハシさんの電話ですか?」

「あっ、はい、そうです」

「よかった。私、わかります?」

 すぐに思い出せないので、黙っていた。

「旧姓、サトウミサトです。

 寿中学校の同級生の。

 タカハシ君とラブラブだった、ミサトです」

 思い出した、中学校の時付き合っていた佐々木美里だ。

 ちょっと、かすれたハスキーな声で、大人びいた娘だった。

 頭の中に中学校と時の美里が蘇る。

「あ、覚えてます。元気ですか?」

「元気です。クラス会のメール、届いたでしょ。

 私、幹事やらされてんの。参加するでしょ」

「今、予定の確認中さ」

「予定なんかあるの?まだ、仕事してるとか?」

「まぁ、そんなとこかな」と、僕は言葉を濁した。

「分かったら連絡ください」

 電話が切れた。

 幹事だから、これから他の人に連絡を取るのだろう。

 相変わらず、明るく元気な人だ。そこが好きだった。


 私は、”クラス会”というものがあまり好きではなかった。

 若い頃なら、一流会社だの、出世しただのと自慢話を聞かされたり、

 同級生と比べられるなんてまっぴらだった。

 でも、今ならいいかもしれない。

 88歳なら、ただのジジイやババァだ。

 見栄を張らずに懐かしいあの時代を語れるかもしれない。

 本当はどう思っていたか訊けるかもしれない。

 行ってみようか。

 私は、クラス会に参加することにした。


 クラス会当日。

 私は、顔を洗っていた。

 鏡に映っているのは、ただのジジィだ。

 まだ、髪の毛は残っているが白髪だ。

 ロマンスグレイってことで、プラスに考えよう。

 でも、目のあたりがイケない。

 眉毛が眉間の幅が開いてしまっている。キリッとしない。

 上まぶたが、垂れている。眼瞼下垂ってヤツだ。

 眼尻のシワも深く、くっきりしている。

 口元は、髭を生やしてカバーしている。

 食べる時にマスクを外しても口元のシワは大丈夫だ。

 と、容姿を気にしている自分が滑稽に見えてきた。

 ジジィとババァの集まりなんだぞ。

 私のことなんか、気にするヤツなんかいないさ。

 でも、何もない生活よりいいか。

 たまには、刺激を受けないとな。


 気分を取り直して、会場に出かけた。

 地下鉄の階段を二段ぬかしで追い越していく若者の後ろ姿を眺めながら、ゆっくりと会場に向かった。

 会場は、ホテル。

 入ると、”寿中学校クラス会様”の案内が見える。

 見栄を張らずにエスカレータで2階の宴会場へ向かった。

 カウンターで受付を済ませ会場に入った。

 既に大勢の人が入っていた。 

 声をかけてきたのは、旧姓佐藤美里だった。

 あの頃の面影はある。

「ねえ、ミキちゃんが来るの。カトウミキちゃん」

 思い出した、加藤美紀。

 学校で一番の美少女として、有名だった彼女。

「佐々木君、狙ってたでしょ、彼女のこと。

 私、わかってたんだ。で、私たち別れたんだけど」

 私は、曖昧な返事をして胡麻化した。

 やっぱり、あの頃の女性には敵わないなと思った。

 それから、私は、幾人かの級友に会い、思い出話に花を咲かせていた。

 少し飲みすぎたかもしれない。

 しばらくして、彼女を見つけた。

 加藤美紀さん。

 なんと素晴らしい歳の取りからなのだろうか。

 姿勢よく、品がよい綺麗な女性になっていた。

 あの頃の憧れは壊されることがなかった。

 心の底から、うれしさが溢れた。

 私は、彼女に近づき話をした。

 あの頃の思いを打ち明けた。

 どうなるってことはないのだけれど、あの頃の忘れ物を見つけたようだ。

 彼女は、何度か目が会ったけど、恥ずかしそうに視線を外していた。

 軽く頷いて、微笑みを耐えさなかった。

 私はお酒も進んでいたが、彼女と会えた興奮を抑えきれずにいた。

 その時、私の背中に誰かぶつかってきて、私は倒れてしまった。

 彼女は、私に手を差し伸べていた。

「大丈夫?」

 この時、初めて彼女と向き合い、正面から視線をあった。

「会いたかったわ、ずーっと待っていたの」

「えっ」私は言葉に詰まってしまった。

 私は、思い出していた。

 加藤美紀は、10年前に亡くなった私の妻だったことを。

 私の周りに人が集まってきた。

 みんな、笑顔だ。

「おめでとう」と言ながら、級友たちは、私たち二人を取り囲んだ。

 まるで、私たちの結婚式の時のように。

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