引退宣言 アタシ達、普通のお婆さんに戻ります。
無月弟(無月蒼)
アタシ達、普通のお婆さんに戻ります。
「「「うおぉぉぉぉ! おランしゃあぁぁん! おミキしゃあぁぁん! おスウしゃあぁぁん!」」」
コンサート会場は熱気に包まれていて、ジジイどもが血管が切れるのも厭わない覚悟で叫び続ける。
今日はワシの推しアイドル、『せんべいズ』のコンサートの日。
『せんべいズ』と言うのは、世のジジイどもに絶大的な人気を誇る三人組のアイドルじゃ。
なぜジジイに人気なのかって? その秘密は、彼女達の年齢。
ステージ上にいる三人、おランさんもおミキさんもおスウさんは、みーんな88歳。彼女達は日本最高齢のアイドルなのじゃ。
歳を重ねても歌って踊るその姿は、まだまだ若い者には負けんとする年寄り心をくすぐり、結成してすぐに人気アイドルとなった。
あ、おランさんが大きくジャンプした!
そして無事着地。その後もちゃんと踊れているところを見ると、どうやら着地したショックで足を骨折してはおらんようじゃ。
周りで応援しているみんなも同じことを思ったのか、安堵の息があちこちから聞こえる。
ふうっ、毎回毎回心臓に悪いのう。けどこのスリルが、またたまらんのじゃ。
やがてコンサートも終わりに近づき、最後の挨拶。
だけどここで、せんべいズの面々は、意外な言葉を口にした。
「突然ですがアタシ達、今度の9月で解散します!」
…………は!?
「応援してくださったファンの皆様、ごめんなさい」
「アタシ達、普通のお婆さんに戻ります!」
突然の解散宣言に、会場はざわめく。
あ、隣で応援していたゲンさんが、ショックで倒れて、スタッフが急いで担架で運ぶ。
相変わらず迅速な対応じゃのう。せんべいズのファンは高齢者ばかりじゃから、こういうことは日常茶飯事。対応も慣れたもの……って、そうじゃない!
解散って、どういうことじゃ!?
「突然申し訳ございません。だけど解散を決めたのには、理由があるのです」
「ご存知の方も多いと思いますが、アタシ達は今まで、アイドルと通院の二刀流生活を送ってきました」
ああ、それはよく知っておるぞ。
何せもう88歳。体のあちこちにガタが来ているから、通院は必須なのじゃ。
かく言うワシも。いや、ここいるファンはのほとんどは、通院しながら推し活をやっておる。
「お医者さんから、常々言われていたのです。健康のために運動するのは良いけど、アンタらの歌とダンスは度を越している。無茶すぎるって」
「そして先日、アタシ達の第六感が告げたのです。このままじゃ本気でヤバいって」
「いつかコンサート中に、ポックリ逝くんじゃないか。そう思うと、怖くて怖くて」
三人の告白に、会場はシーンと静まり返る。
そんな……何を今さら!
「何を言っとるんじゃ! そんなの結成当初から分かりきってたことじゃろー!」
「最初せんべいズが結成された時、ワシらみんな、コイツら正気かって思ったんじゃー!」
むしろ今まで、ポックリ逝く可能性に気づいていなかったことの方が驚きじゃ。
「それにファンの皆も、大声を出しすぎて血管が切れる人が続出していますし。いつか取り返しのつかない事になるんじゃないかって、心配なんです」
「そんなもの、いらん心配じゃ。何せこっちは、そんなのハナから承知の上で応援しとるんじゃー!」
「今日だけで、五人は担架で運ばれたぞー!」
「ワシらは元々、命懸けでアンタらを応援しとったんじゃー! お願いじゃから辞めんでくれー!」
会場の至るところから、辞めないでくれと言う声が上がる。
けど叫びつつも、みんな心の中では思っておった。
解散は残念じゃが、おランさんたちが決めたのなら仕方がない。暖かく見送ることが、ワシらの務めなんじゃと。
「解散しても、せんべいズは永遠のスターじゃー!」
「今までありがとーう」
「アンタらは、ワシら年よりの希望の星じゃったー!」
涙を流しながら、見送る一同。
気づけばワシもボロボロ泣いておったけど、今日くらいは泣かせてくれい。
こうして、せんべいズは惜しまれつつも解散した。
さようならせんべいズ。じゃが解散しても、ワシらは一生、アンタらのファンじゃからな!
……半年後。
『せんべいズに続くシニアアイドル!
せんべいズの解散後、新たなシニアアイドルが世間の注目を浴びることとなった。
彼女達は、
彼女達のおかげでせんべいズロスになっていたジジイどもは活気を取り戻したが、一つ言ってよいか?
文字通り命懸けでアイドルをやろうと言うババアが、よく88人も集まったのう!
※最後に作者からも一言。
せんべいズの元ネタになった、キャンディーズさんごめんなさいm(_ _)m
引退宣言 アタシ達、普通のお婆さんに戻ります。 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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