88歳の天国恋愛物語~by.エンジェル~

DITinoue(上楽竜文)

88歳の天国恋愛物語~by.エンジェル~

 萩善輝はぎよしてる、88歳。萩亜紀代はぎあきよ、88歳。どちらも今年が米寿だ。だが、米寿のお祝いを家族からしてもらった2カ月後、2人はほぼ同時に他界した。善輝が12月19日、亜紀代が12月21日。現世からは去ったが、魂がこれで終わったわけではない。


 地上では仏事を行っている。私、亜紀代は夫と一緒にその様子を見ていた。

「ようこそ、善輝さん、亜紀代さん。歓迎します」

そう言ってやってきたのは、スラっとした体系の青年だった。

「僕は、リースと言います。19歳で死にました。」


「まず、ここはどこなんですか」

善輝が聞いた。

「よくぞ聞いてくれました、ここは天国です」

あまりにもストレートすぎる答えを出してきた。

「天国なんですか」

「そうです。今から永遠に天国を楽しめます」

「はぁ」


「天国は天使の国です。天使は生きている人へよくメッセージを数字で送ります。その数字のことを、『エンジェルナンバー』って言います」

「へぇ」

何か聞いたことがあるが、あまり知らなかった。

「しかも、天国にやってきた人もエンジェルナンバーで幸せになることができます」

ふぅん。

「僕の、死んだ日は717になります。この数字は、『なりたい自分になれる、最高の日』という意味です」



「で、僕が死んだ日、1219はどうなるんだい?」

善輝はいつの間に溜口になったんだ?

「『信念が現実になる』です」

「ほぉ。天国でも幸せな暮らしができるように生前願ったからな」


「じゃあ、私の1221はどうなるんだい?」

「『あなたの望みを現実にする』ですね。1219と似ている。でも、自分を信じ続けないと、望みは現実にならない。現実になったってことは自分を信じ続けたからですね」

そう言われると照れる。


「それじゃあ、僕はこれくらいで。良い天国Lifeを!」

そう言って、リースは突然去っていった。

「なあ、これからどうするんだ?」

「まずは、家に行きましょうか。リース君が教えてくれたよ」

家に行くと現世で住んでいた家と同じような構造だった。何もすることがなかったので、寝た。


 僕、善輝はナンバーを調べていた。ところがある日のこと、地上では、ホワイトデー前日の3月13日(金)だ。

「おはよう」

「おはよう」

亜紀代が起きてきたので、慌てた。

「私、決心したの。この家を出る」

「へぇ・・・ん?何だって!!」

「落ち着いて。わけがあるの。仕事をしたいからなのね。」


「あのね、天国でも子供を産むことができるらしいの。でも、その子供が子宮に入るまでに教育しなくちゃいけないらしくて。それで、学校があるらしいから、そこで働くことにした」

「別れなきゃいけないのか」

「いや、別に。住み込みで働くだけだから」

「ならいいが」

安堵は出来なかった。ザワザワと胸騒ぎがしていたからだ。


――1週間後、亜紀代が出て行った数日後に予感は当たった。別れなきゃいけないかって聞いて、いいえって言ってたのに。

「仕事場で告られた。せっかくの天国ならやり直したい」ってさ。で、当日中に離婚届を天国役所に出した。


 私、亜紀代は離婚した。善輝とは別れたくなかった。でも、仕事場で出会った私と同じくらいの年の男性、俊介としすけに口どかれて、仕方なく応じたのだった。


「亜紀代、ここが僕の家だ。早速料理を作ってくれないかい?」

「何で、私料理は得意じゃない」

「いいから」

「無理」

「やれ」

しつこく言ってくるので、実際に和食定食を作る。すると・・・・・

「マズい」

「失礼だねぇ。あれだけ作れと言ってたのに」

「うるさい」

とんでもないやつに口どかれたなぁと思った。


またある時、倶楽部のサークルに行って、友達と話しているのを見ていた俊介になぜか、厳しく注意された。

「俺以外の男とは会うな」

また、兄と一緒にショッピングに行くと、

「あいつなんかいらない。あいつは君の兄じゃない」

と、言ってくる。

男の人に会うたびに、彼から同じような注意を受ける。マジでムカつくんだけど。


そして、ある日にこう言われた。

「外に出るな」

「は?」

言われた時は意味が分からなかった。

「なんで」

「俺以外の男に会ってほしくないからだ」

「嘘・・・・・」

「会うなって言ってるんだ、れは俺からの愛なんだ。受け取ってくれ」

「いや」

「受け取れ!!」

返事を待たずに、彼は去っていった。


ある雨(??)の日。亜紀代は俊介の家から脱走した。あの人のことは元々よく思わなかったが、もう本当に嫌になった。結婚式を挙げる前で本当に良かったと思う。


脱走先は公園だ。そこにはなぜか、落とし穴がある。私が前もって調べておいたから、簡単に住居にすることができる。

で、さてと・・・・・老体に鞭打って、まあ、天国だから軽々とできるわけだけど。ひたすら穴を掘って、部屋を作っていく。その最中に、愛しの人が現れた。


 僕、善輝は現世を覗き見できる展望台があると聞いたので、それがあるところに向かった。すると、そこは公園だった。だが、何か土が掘り返された跡がある。覗くと・・・・・


「亜紀代じゃないか!!」

「よ、善輝さん!!」

2人は感動の再会を喜んだ。若いころのように、身体を合わせた。彼女の身体は冷たかったはずなのに、僕にとってはとっても温かく、気持ちが良かった。んで、家に帰って2人で楽しいことをたくさんした。


その日は、8月8日の午後1時13分。88のエンジェルナンバーは「富をもたらす」という意味だ。88歳寂の僕は富よりももっと良いものを手に入れた。

で、午後1時は13時になる。1313は「復縁」という意味を持っていた。


離婚届を取り消しし、もう1度小さな結婚式を挙げると、ある男が詰めてきた。俊介だ。

「俺の妻を返せ!!」

「返さないよ」

善輝が言う。

「亜紀代、俺以外の男には会うなと言った・・・・・!」

「あなた、私を愛していると言いましたね?私はあなたのことを最初っから愛していませんでした」

「え・・・・・・・・・・・・」

見かけによらず、冷徹な言葉を放った亜紀代に、俊介はショックを受けたようだ。彼は数十分立ちつくすととぼとぼと歩いていった。


 月日は流れ、2人の子が、昇天してきた。。命日のエンジェルナンバーは710。そして、彼も88歳で死去した。天国で家族として暮らせる日々を取り戻した彼らは、“願いが達成した”、“大きなを手に入れた”日々を楽しんでいた。いつまでかは、エンジェルが決める――

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88歳の天国恋愛物語~by.エンジェル~ DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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